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【テクニカルライティング】熟練者と初心者の書く“結果と考察” その違いとは・・・

科学技術者が書く文章の多くは,実験報告書です.
その中でも重要なのは“結果と考察”です.

ここはテクニカルライティングのウデの見せ所で,
論理的でわかりやすい“結果と考察”が書ければ,
あなたの評価は高まります.

しかし,初心者はそれをうまく書けません.
そこで,本稿では,熟練者と初心者の“結果と考察”の違いを示し,
違いが生まれる要因を考えます.

次に,初心者が熟練者並に“結果と考察”を書くコツを述べます.

1.熟練者の書き方―論理的でわかりやすい“結果と考察”

2-プロパノールの沸点測定実験を実験例にとり,
この実験結果を報告します.

熟練者の書いた“結果と考察”を以下に示します.
論理的でわかりやすい“結果と考察”です.

なお,実験の詳細は
《実験報告書を書くプロセス その例1》
を見てください.

熟練者の書いた“結果と考察”(例文1)

2-プロパノールの沸点を調べるために,
加熱時間と留出口の温度を測定した.
それを表にまとめ,図1に示す.

加熱時間に対して,留出口の温度は上昇し,
25分以降は82℃で一定になった.このとき,
2-プロパノールは沸騰していた.

その後2-プロパノールは,冷却管を通って
メスシリンダーに採取された.

この結果より,加熱後25分後より留出口の温度は
82℃で一定になり,このとき2-プロパノールは沸騰することがわかった.

液体を加熱すると蒸気圧が増加する.
蒸気圧が外圧に等しくなったとき,液体は沸騰する.

液体の蒸気圧が外圧と等しくなる温度が沸点である1).

上記結果より,2-プロパノールの沸点は,82℃であると考えられる.

また,文献2) には,大気圧が1.013×105Pa(1気圧)のとき,
2-プロパノールの沸点は82.4℃と報告されている.
これは上記考察を支持する.



したがって,2-プロパノールの沸点は82℃であることがわかった.

文献
1)アトキンス物理化学(上)第4版
(千原秀昭,中村亘男訳,東京化学同人,1979年)
p. 194.
2)化学便覧,日本化学会編,丸善,I-386,1993年.

表 加熱時間と温度

時間/分 0.0 2.5 5.0 7.5 10.0
温度/℃ 18 22 29 37 47
時間/分 12.5 15.0 17.5 20.0 22.5
温度/℃ 54 61 69 75 81
時間/分 25.0 27.5 30.0
温度/℃ 82 82 82

2.初心者の“結果と考察”の書き方

では初心者はどのように書くでしょうか.
その例を2つ示します.
なお,図表と引用文献の記載は割愛します.

初心者の書いた“結果と考察”(例文2)

2-プロパノールの沸点を調べるために,
加熱時間と留出口の温度を測定した.
それを表にまとめ,図に示す.

加熱時間に対して,留出口の温度は上昇し,
25分以降は82℃で一定になった.

このとき,2-プロパノールは沸騰しており,
その後冷却管を通ってメスシリンダーに採取された.

以上の結果より2-プロパノールの沸点は,82℃であると考えられる.

初心者の書いた“結果と考察”(例文3)

2-プロパノールの沸点を実験した.加熱時間に対して,
留出口の温度は上昇し,25分以降は82℃で一定になった.

このとき,2-プロパノールは沸騰していた.
その後冷却管を通ってメスシリンダーに採取された.

したがって,2-プロパノールの沸点は82℃であることがわかった.





いずれも熟練者より簡単な記述です.簡潔ではありません.

確かにデータ(事実)は書かれています.
だが,結論(2-プロパノールの沸点は82℃)の
根拠(エビデンス)は示されておらず,
結論に至る議論も書かれていません.

データの提示からいきなり結論にジャンプしています.
必要なことが書かれていないのです.

熟練者とは大きく異なっています.

3.熟練者と初心者の違い

熟練者と初心者の記述内容は異なりました.
それは熟練者と初心者の“結果”を“考察”するプロセスと,
“書くプロセス”が異なっているからです.

どのように異なっているのか,説明します.

まず,“結果と考察”がどのような論理構成を持っているのかを述べます.

ついで,熟練者と初心者の“結果”を“考察”するプロセスと
“書くプロセス”を,それぞれ述べます.

1)“結果と考察”の論理構成

“結果と考察”の論理構成は以下のとおりです.
これを把握しておかないと,
熟練者と初心者の違いをつかめません.

(i)データ(事実)の提示
データ(実験・観察事実)を示します.

(ii)エビデンスに基づく議論
データについて,根拠・証拠を示して
実験・観察事実が起こった要因や
その理由などを議論します.
考察です.

(iii)結論
上記議論より結論を導き出します.

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論理的でわかりやすい“結果と考察”は,
(i),(ii)および(iii)のすべてが備わっています.

熟練者の書く“結果と考察”はこの論理構成をすべて持っています.

熟練者は次のように“結果”を“考察”し,
“書くプロセス”を実践しているからです.

2)熟練者の“結果”を“考察”するプロセスと“書くプロセス”

熟練者の“結果”を“考察”するプロセスと“書くプロセス”を図解します.

ここで,priは書き手のみが持っている情報(プライベートな情報)で,
comは関係者で共有化されている事項です.

priの情報は文章にしないと読み手には伝わりません.
それを熟練者はすべて“結果と考察”に書いていることに注目してください.

①熟練者の“結果”を“考察”するプロセス

熟練者は,“結果”を次の順序で“考察”します.

・実験データを図表にまとめて見える化します

・データを考察するためにその根拠・証拠(エビデンス)を求めます.

・データからわかること,データの意味すること,
さらにエビデンスとデータとの関係や
エビデンスとデータ両者からわかることを考察します.

・考察したことを箇条書きとして書き出します.

・それらから論理的・合理的に得られる結論を導き出し,箇条書きします.

②熟練者の“書くプロセス”

熟練者の“書くプロセス”は以下のとおりです.

・上で使ったデータの図表,エビデンス,
考察したことおよび結論を机の上に並べます.
これらが書く材料です.これらすべてを使います.

・アウトラインを作ります.
データの提示,データからわかること,
データとエビデンスの関係,考察内容,
そして結論を順番に書いていきます.
箇条書きにすることが多いです.
このとき論理の筋道が通るようにして進めます.

・アウトラインにそって文章を書きます.
草稿ができます.
書く材料がすべて盛り込まれています.

・推敲します.論理の道筋が通っているか,
論理構成を見直して検討します.文章構成を整え,
適切な表現を選びます.
タイプミスがないか調べます.
これで文章ができあがります.

・文章を書く目的と照合します.
文章全体の構成と結論が,
書く目的と合致していればOKです.
“結果と考察”が完成します.

3)初心者の“結果”を“考察”するプロセスと“書くプロセス”

初心者の“結果”を“考察”するプロセスと
“書くプロセス”を図解します.

破線箇所は初心者が十分に行っていないことを示します.
以下でpri(書き手のみが持っているプライベート情報)の
多くを書いていないことに注目してください.

①初心者の“結果”を“考察”するプロセス

初心者も“結果”を“考察”します.
そのプロセスは熟練者と同じです.

しかし,教員や上司に指導を仰いで考察を進めるとしても,
熟練者のようにすべてのプロセスを行わないかもしれません.

また,熟練者ほどには深く考察しないかもしれませんし,
熟練者ほどデータの意味などを洞察できないかもしれません
(緑色破線の箇所).

②初心者の“書くプロセス”

初心者は“書くプロセス”のいくつかを
行わないか十分ではありません.

熟練者は書く材料すべてを使って書きます.
それに対して初心者はエビデンスと考察を省くことが多いです
(緑色破線箇所).

上の初心者の書き方例はこの典型です.
確かにこれではテクニカルライティングとは言い難いです.

初心者と熟練者ではこのように,
“結果”を考察するプロセスと“書くプロセス”が異なりました.

その結果,初心者は論理的でわかりやすい“結果と考察”を書けません.

4)初心者が論理的でわかりやすく書けない要因

なぜ初心者は熟練者と同じように,
論理的でわかりやすく書けないのでしょうか.

要因は3つあります.

① “結果”の“考察”が十分でないからです.
上司や教員の助けを借りたとしても,
データの意味を十分に理解していないからです.

② 文章作成能力の欠如です.
筋書きを十分に作りこまないで文章を書き始めること,
推敲が不十分なこと(紫色・黒色破線箇所)によります.
また,文章を書くことそのものの能力不足もあります.

③ 私たち日本人の日常生活におけるものごとの言い方を,
テクニカルライティングに持ち込んでいるからです.

私たちは日常生活で事実(データ)のみを述べて,
根拠・証拠・理由などは述べません.

これは,私たち日本人特有の言い方です.
これを初心者はそのまま“結果と考察”を書くときに行っているのです.

つまり,データ(事実)は述べるが,エビデンスと考察を省いて,
いきなり結論に行くのです.

筆者はこの中でも三番目の理由が初心者にとって
最も大きい理由と考えています.
これについては説明が必要です.以下に述べます.

3.日本人の日常生活における言い方とテクニカルライティング

私たち日本人の日常生活における
ものごとの言い方とは何でしょうか.

私たちは目の前で起こったことを
どのように人に伝えるでしょうか.

たとえば,下図のように,
風が吹いた,次にボールが転がった,
という現象を見たとします.

これをどのように伝えるのか
アンケートを取って調べたところ,
回答者の多くは
「風が吹いてボールが転がった」と述べました.

このとき,回答者は,風が吹いたことが
ボールが転がる現象の要因であることを認識していました.

このことは,私たちはある現象を人に伝えるとき,
事実のみを伝えてその要因などは
いちいち言わないのが当たり前なのです.

話し手が事実を言えば,要因などは
聞き手が察してあげることなのです.

事実の中に要因などが含まれると言ってもよいです.
これが私たちの日常の言い方なのです.

これをそのままテクニカルライティングに持ち込むと,どうなるでしょう.

書き手は実験・観察事実のみを述べます.
しかし,エビデンスや議論は読み手が察することなので,
それは書かなくてもよいと,書き手は認識しています.
だから書かないのです.

でも,これではテクニカルライティングにはなりません.
初心者はそこを十分に理解していないのです.

4.初心者の書き方―熟練者並に書くために

初心者はどのようにすれば,熟練者の書き方に近づけるでしょうか.
それは,上の4)で述べた3つの要因を取り除けばよいのです.
具体的には以下のとおりです.

① “結果”を十分に“考察”することです.
自力で難しいのなら上司や教員の援助を仰ぎます.
納得するまで繰り返し考えます.
最初はたいへんかもしれませんが,
慣れてくると短時間でできるようになります.
「習うより慣れろ」です.

② テクニカルライティングの基本を学ぶことです.
それには,拙著(“理系のための文章術入門”化学同人)のような
ガイドブックで書き方を勉強するのです.
文章の体裁,書き方の基本やアウトラインの作り方などを習得できます.

③ 日常の言い方から離れて熟練者のプロセスを意識して実践することです.
そのためには,熟練者を見習うのです.
以下の“結果を考察するプロセス&書くプロセス”を,
コピーして机の前に張り出します.
そこに各箇所のポイントをメモしながら進めます.
終了したところをマーキングして進めると確実です.

5.まとめ

1)多くの科学技術者が書く実験報告書において,
“結果と考察”はその重要ポイントです.
ここを論理的でわかりやすく書くと,あなたの評価は高まります.

2)本稿は,熟練者と初心者の“結果と考察”を例示し,
初心者が熟練者並に書けない要因を検討しました.
要因は以下の3つです.

① “結果”の“考察”が十分でないからです.
② 文章作成能力が欠如しているからです.
③ 私たち日本人の日常生活におけるものごとの言い方を,
テクニカルライティングに持ち込んでいるからです.

3)日常生活におけるものごとの言い方とは,
事実(データ)のみを述べて,
根拠・証拠・理由などを述べないことです.
これは,私たち日本人特有の言い方です.
これを初心者はそのまま“結果と考察”を書くときに行っているのです.
つまり,データ(事実)は述べるが,
エビデンスと考察を省いて,いきなり結論に行くのです.

4)初心者が熟練者並みの論理的でわかりやすい
“結果と考察”を書くコツは以下のとおりです.

① “結果”を十分に“考察”することです.
自力で難しいのなら上司や教員の援助を仰ぎます.
納得するまで繰り返し考えます.「習うより慣れろ」が大事です.

② テクニカルライティングの基本を学ぶことです.
拙著(“理系のための文章術入門”化学同人)のような
ガイドブックで書き方を勉強します.

③ 日常の言い方から離れて熟練者のプロセスを
意識して実践することです.
そのためには,熟練者を見習います.
“結果を考察するプロセス&書くプロセス”を
コピーして机の前に張り出し,
一つひとつチェックしながら実践します.

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著書紹介
『理系のための文章術入門』

科学技術文の書き方を,易しく解説した入門書です.
本書の特徴は以下のとおりです.

①重要な部分をカラーにして強調したり,ポイントを枠で囲むなどして,ビジュアルな誌面とし,内容をつかみやすいようにしています.

②日本語の構成と特徴を述べ,次いで理系文の構成と特徴を,日本語文のそれと比較しながら述べ,両者の違いがわかるように配慮してあります.

③科学技術文の構成と特徴を「理系文法」として体系化したので,科学技術文の書き方を体系的に困難なく習得することができます.

④科学技術者が書くさまざまなスタイルの文章(レポート・卒論・企業報告書など)を示し,書き方を具体的に解説しました.

いろいろなスタイルの文章に慣れ,それらを書くスキルを身につけることができます.
本書で学ぶことにより,科学技術文書作成の達人になれます.
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