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科学技術とは何だろうか(4) 理系人の自己分析―自分の強みと弱みを見つける方法

目次

1.理系人には自己分析する機会がある

 人は強みも弱みも持っています.でも,普段はそれを見つめることをあまりしないでしょう.気にはなるかもしれませんが,意識しなくても何とかやっていけるからです.
 
 理系人には自分の強みを主張する機会があります.たとえば,新しい研究を提案するとき,「私は○○の能力を持っていますので,この開発をお任せください」など,自分の強みをアピールして提案を通します.また,業務の自己評価でも自分の強みを書くことがあります.
 
 一方,弱みを自己分析することもあります.業務評価で自分を見つめる機会が与えられたり,仕事で悩んだときなどです.

2.自己分析は難しい

 ところが,自己分析して自分の強みや弱みを見つけるのはなかなか難しいです.その原因は以下のとおりと考えます.

①自己を客観的に見つめる習慣が私たちにはほとんどない
 多くの人にとって,自己分析し,自分の強みを見つけるのは難しいと思います.自分自身を見つめ直して自己(客観的な自分自身)を見つけねばならないからです.私たちは自己を独立したものとして自分と離しておき,それを客観的に見て論理的に分析することに慣れていません.ものごとを客観的に見ることと論理的に分析することはできても,それを自己に適用するとどうしても自分に都合のよい方向に自分を誘導してしまいます.

②表面的なことに留まり深掘りできない
 自己分析しても,○○ができる,など表面に現れるワザやスキルに留まることが多いと思われます.自己分析で大切なのは表面的なワザやスキルの発見に留まるのでなく,そのワザやスキルを生み出す本質的な能力を深掘りして見つけることなのです.しかし,深掘りするのはたいへんで,堂々巡りになったり行き詰まったりします.



3.自己分析して強みを見つける方法

 自分自身をジックリと見つめることは,自分の知らない自己を発見するよいチャンスなので,意欲をもって取り組むとよいです.

 客観的に見つめ論理的に深く分析する方法は,自己をできるだけ他者の目で見て,言葉を使って自己を分析し,文章や図解で示し,それを見つめてさらに考え,さらに文章や図解化を続けることです.文章化と図解化によって客観的と論理的になることができます.
 
 具体的には,自分の活動で充実感を得たものを見つけて,それについて深く考えることです.自分の研究開発や仕事などでワクワクしたときやとても楽しかったとき(それが充実感を感じたときです)のことを思い出します.なぜそのように感じたのかを考えると,思いつくことがあります.それは充実感を生み出したものです.しかし,それは表面的なものです.なので,さらにそれについてさらに深く考えると,最初に考えたものと異なり,本質的なものに到達することができます.それが自分自身の強みです.それらは2~3つあると思います.

 これだけでは理解しにくいと思います.研究開発で例を挙げましょう.研究を行っているとき,あるソフトを自作して,それを使ったらある種類のデータ解析がうまくいった,としましょう.それができたとき充実感を覚えたとしましょう.ここに強みがあるはずです.なので,なぜこのときそう感じたのかを考えます.それは自分のソフトをつくる力があって,今回は狙い目どおりのソフトがつくられたからだと思いました.なので,ソフト作成力が自身の強みと考えつきました.多くの場合,ここで考えることを止めて,ソフト作成力を自身の強みとします.しかし,真の強みを発見するには,さらにもう一度それについて考え直します.なぜソフト作成力を持てるようになったのだろうか,と.それが深く考えるということです.そうすると,いろいろな考えが出てくるでしょう.考え続けるとしだいに思いが収斂しゅうれんしてきます.たとえば,アルゴリズムの原理とその考え方をよく理解していたからだし,ソフト設計力があるからだ,と考えつくかもしれません.そして,それが身に付いたのは,論理的にものごとを考える力(論理的思考力)があったからだ,との考えにたどり着いたとします.そうすると,自身の強みは,表面的にはソフト作成力ですが,本質はソフト設計力であり,論理的思考力であることがわかります.

 上で述べたように,このプロセスを頭の中で進めるのではありません.思いつくこと一つひとつを言葉に現し,それを書き(描き),書いた(描いた)ものを見つめ,そこから思い浮かぶことを書き(描き),さらに考えつくことを書き(描き),関連するものを線で結んだり,着色します.このように手を動かしたり筆記用具の助けを借りて,探求を進めます.



4.自己分析して自分の弱みを見つける方法

 自分の仕事などを振り返ると,上のように自分の強みを発見できますが,一方弱みも見つかります.仕事がうまくいかなかったこともあるでしょうし,回り道をしてしまったこともあるでしょう.それらについて,なぜうまくいかなかったのか,なぜ回り道をしたのか,を考えます.そうすると,何かが足りないからだと気づきます.それが弱みです.ただしその原型です.ここで強みの本質の発見と同様に,弱みの原型について深く考えて本質的なものを見つけます.この項目もおそらく2~3つあるでしょう.

 これも研究開発で例を挙げましょう.ある実験で多くのデータを取りましたが,条件の異なるものが含まれており,それらを分類して条件を一定の範囲にしないと,データ解析ができないとしましょう.しかし,そのことに気づかず,全データを解析しようとしたがうまくいかなかったとしましょう.後日,なぜうまく解析できなかったのか考えてみたら,条件を吟味しないですべてのデータを解析しようとしたのがよくなかったことに気づいたとします.このことはまだ自分に足りない能力があるからだと反省して,身につけるべき能力を考えました.ここで,反省とは,自己分析して自分自身をよく認識することです.「間違えちゃった」と頭を下げることではありません.さて,そうすると,データを分類しなかったのが問題だと気づきます.データ分類能力が弱みだと早合点するのは浅慮です.さらに深く考えると,データをそのまま何も考えないで受け入れていたのがよくなかったのだ,だから一つひとつ吟味することが大事だと気がつきます.吟味するということは,データをいろいろな方向から検討する能力,つまり批判的に考える能力(批判的思考力)です.これが本質です.だから,弱みは,批判的思考力が不足している,です.それが外に現れる一例がデータ分類能力の不足なのです.前者は本質ですが,後者は表面的なものです.この2つには大きな違いがあります.前者(本質)を見つけ出す努力が必要です.

 そうすると,弱みを改善する,ここでは批判的思考力を磨くことが大事だとわかります.ここまで考えを進めたら,次に,どのようにすれば,その能力を身につけることができるのかを考えます.たとえば,今までとは異なる方法や逆の立場から考えて実行する.具体的には,今まではデータをそのまま受け入れていたが,これからは条件を調べたり条件ごとに分類するなど今までやってこなかった方法でデータを吟味するなど,です.

 ここも,前項で述べたように,頭の中で進めるのでなく,一つひとつ言葉に現し,それを書き(描き),書いた(描いた)ものを見つめて探求します.



5.まとめ

 人は強みも弱みも持っています.理系人には自分の強みを主張する機会があります.また,弱みを自己分析することもあります.
 
 ところが,自己分析して自分の強みを見つけるのはなかなか難しいです.その原因は,自己を客観的に見つめる習慣が私たちにはほとんどないこと,および表面的なことに留まり深掘りできないこと,です.
 
 本稿では,自己分析して強みを見つける方法と,自己分析して自分の弱みを見つける方法を述べました.

以上

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