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ChatGPTをテクニカルライティングで活用する ―音声入力原稿をChatGPTに改訂させる―

目次

1.はじめに

 ChatGPTが出現して約8ヶ月が過ぎました.様々な分野でその利用が始まっているようで,いろいろな使い方が提案されています.筆者はChatGPTのような生成AIはうまく使うと私たちの知的生産力を向上させると考えています.

 そこで,本稿はその使い方の一例として,音声入力原稿をChatGPTで改訂させる方法を紹介します.

2.音声入力原稿とその改訂

 原稿を書くのはどんなに慣れている達人でも面倒なものです.構想を練りそれを言葉にするのに一苦労し,さらに改訂して完成稿にするのはストレスフルですし,エネルギーを使います.言葉をうまく選んでいるか,わかりやすい表現か,そんなところでも考えあぐね筆が止まることがしばしばです.

 近年のデジタル技術の進歩により,音声を入力して文章を作成することが容易になってきました.それがうまくいくと原稿を書く(話す?)ことが楽になるかもしれません.しかし,音声入力原稿を完成稿にすることは非常に難しいです.その理由は,音声を入力するとき,筋道の通った文章を朗読しているのではありません.話の筋道を考えながら話すのですが,うまい言い方を探して言葉をいろいろと変えて見たり,筋道を通そうとしながらも話があちこちに飛んでしまったり,同じ音で別の意味の言葉(同音異義語)に変換されることも多いです.つまり,繰り返し表現や同音意義語を含む脈絡の乏しい文章になってしまいます.また,言いよどんだり,意味のない言葉(ええー,など)を発したりします.さらに,指示しなければ句読点は付きません.そして,言いたいことを十分言えていないときは,話が飛躍することもあります.これらの問題点は会議やブレーンストーミングの文字起こしでも同様です.

 このような原稿をチェックして筋道の通った文章に改訂するのですが,たいへん時間がかかりますし,ストレスも大きいです.原稿作成の場合は,最初からパソコンに文字を入力した方が速くなることも多いです.

3.ChatGPTの活用

 そこで,ChatGPTの登場です.音声入力原稿をChatGPTに改訂させてみたら,はたして原稿作成は容易になるだろうか?試してみたら,うまくいきました.そこで,以下にそのプロセスを述べます.

4.ChatGPTに原稿を改訂させる

 実際に行った作業を以下に記します.

1)音声入力原稿の作成

 音声入力の準備をしました.マイクをパソコンに取り付けました.マイクが内蔵されているパソコンはそのままでOKですが,筆者のパソコンは外部取り付け型です.ワードパットを立ち上げ,Windows11を音声入力モードにしました.ワードパッドの立ち上げは,スタートボタンをクリックして,右上の「すべてのアプリ」をクリックします.その中から「ワードパッド」を探してクリックすると,ワードパッドが立ち上がります.Windows11を音声モードにするには,windowsキーを押しながらHキーを押すと,マイクのマークが現れるので,それをクリックします.これで音声入力ができるようになりました.

 マイクに向かって文章にしたいことを,話して入力しました.しゃべっていると,違う言い方や言葉に変えたくなったり,話す順序を変えたくなります.そのときはそうしました.あまり気にしないでドンドンしゃべっていくようにしましたし,順序も気にしませんでした.そのようにして,音声を文字起こしした原稿(音声入力原稿)ができました.

 それを以下に示します.原稿は意味のない言葉(えっと,ええ,ああ,など)があったり,似た言葉が繰り返し現れたり(繰り返し表現),別のことが話されていたり,同音異義語に変換されていたり,音声の文字変換が違っていたり,話があちこち飛んだりしています.また,句読点が付けられていません.これは句読点を指示しなかったからです.このように,このままでは意味がまったく理解できません.話した当人は何を言いたかったのかは覚えていますが,それを思い出しながらでも,とても改訂作業をしようという気になりません.なお,下線部はChatGPTによる改訂で意味がまったく理解できない文章になった箇所ですし,二重下線の文字は筆者が意図しなかった変換です.後ろのカッコ内に筆者が言いたかった言葉を記しました.

音声入力原稿
 チャットgpt(ChatGPT)の活用法を考えるえっと音声で入力した原稿を例えば会議の文字起こし原稿とか報告書論攷分野(や論考文)とそしてエッセイの原稿などうんそういう文章をああチャットpt(ChatGPT)に読み込んで改訂させてどれだけ文章がああまあどれだけいい文章が出来上がるかと言うことを検討させてみたいで音声入力変更は何が問題かというとああ繰り返し表現がオークうん話同じことが繰り返しか言われたりそれから話があちこち飛んだりえええーと買おうとか(とかオーとか)そういう意味のない言葉が見られる見られ見られますでそしてえっと句読点がまあ打つことを意識しないとふとて(句読点)が打たれていないまあつまり文章の(体(てい))をなしてないわけですねまあだからそれを文字起こししたものをまあ普通は見ながら回転(改訂)しているわけですがまあああかなり時間がかかるわけですそれでええチャットpt(ChatGPT)二(に)ええやってみたらどうなるかということですまあ具体的にはチャットDVD(ChatGPT)にはやって(やって)ほしいことは一つ音声入力原稿をなめらかで自然な日本語文に変えられないかっていうことは書いてほしいということですね2つ目はああ論点を整理してええ筋道の通ったああ文章に帰るいう(変えるという)ことですでええ今この文章は今この文章の第一原稿というのはええワードパッドに音声入力して文章化したものですそれをシャットdbt(ChatGPT)に見せたらチャットDVD(ChatGPT)はどうするやってみたいと思います.

2)ChatGPTに改訂させる

 この原稿をChatGPTに改訂させました.3回改訂させました.その指示文を転記します.

指示文1
 以下の文章を,同じ内容の文をグループ化し,言葉を重複しないで,だ・である調で,句読点をつけて,滑らかで自然な日本語文に直しなさい.

指示文2
 回答文を,だ・である調に変えなさい.文章に表題を付けなさい.

指示文3
 回答文のです・ます調を,だ・である調に変えなさい.

 指示文1で文章はかなり改訂されました.しかし「だ・である」調に変えるよう指示しましたが,ChatGPTはその指示に従いませんでした.指示文2で,それをもう一度指示し,さらに文章に表題を付けるよう指示しました.その結果,表題は付きましたが,「だ・である」調に変わっていませんでした.そこで,指示文3でもう一度指示しました.文体を除いて,文章全体は指示文1で改訂されたものが,指示文2でも3でも出力されました.

 ChatGPTが,指示文3に対して出力した文章を示します.なお,本稿の句読点は「,」,「.」ですが,ChatGPTが出力したものは,「、」,「。」です.そのままにしてあります.

ChatGPTが改訂した文章
【チャットGPTの活用法を考える】
 えっと、音声で入力した原稿を例えば会議の文字起こし原稿や報告書、論考分野、そしてエッセイの原稿など、様々な文章を、チャットGPTに読み込んで改訂させて、どれだけ文章が改善されるかを検討したいと思う。音声入力の課題は、繰り返し表現や不要な言葉が見受けられること、また句読点を適切に打つことを意識しないと文章が整っていない点だ。文章の手を加えずに音声入力すると、時間がかかることもあるが、それを文字起こししたものを見ながら修正することで改善できるだろう。

 具体的には、チャットGPTに希望することは2つある。1つ目は音声入力の原稿を滑らかで自然な日本語文に変えられるかを試してほしいということだ。2つ目は論点を整理して筋道の通った文章にまとめることだ。今の文章はワードパッドに音声入力して作成したものだが、それをチャットGPTに見せたら、どのように改善してくれるのか、試してみたいと思う。

 文章はかなりよく改訂されて,読める文章になりました.指示したとおり,同じ内容の文はまとめられ,重複した言葉はなくなり,言葉の誤変換が少なくなり,滑らかで自然な日本語文になっています.この文章なら改訂しようという気になります.しかし,下線部はまったく理解できない文になりました.この理由はよくわかりません.このような箇所も出てくるようです.

 とはいえ,ChatGPTは筆者の話したことを知っていて,それに沿って出力したようにも思えます.もちろんChatGPTは知るはずがありません.だから,与えられた文章をChatGPTはどのように文字を認識して,指示に従い改訂するのか,とても興味深いです.

 さて,ChatGPTが改訂した文章は,まったく意味がわからない文(下線部)があったり,改訂が間違いだったり,筆者が付け加えるべきところがあります.推敲すべきです.そして,指示したのにも関わらず,だ・である調になっていないのも問題です.

5.筆者(人間)が推敲する

 そこでこの改訂文を,話したことを思い出しながら筆者(人間)が推敲し,完成稿を作製しました.推敲時間は約15分でした.

 完成稿を示します.

【ChatGPTの活用法を考える】
 ChatGPTの活用法について考える.音声で入力した原稿,例えば会議の文字起こし原稿,報告書,論考文やエッセイの原稿など,様々な文章をChatGPTに読み込ませ,改訂させると,どの程度文章が改訂され,優れた文章になるのかを検討したい.音声入力原稿の課題は,繰り返し表現や無駄な言葉(ええ,など)が使用され,話があちこち飛んだり,句読点は指示しないと打たれないことだ.また,体裁よく整った文章になっていないことも問題だ.

 具体的に,ChatGPTに期待することは2つある.まず,音声入力の原稿を滑らかで自然な日本語文に変えほしいのだ.次に,論点を整理して筋道の通った文章にまとめることだ.

 この文章は,ワードパッドに音声入力して文章化したものだ.それをChatGPTに見せたら,どのように対応するか,試してみたい.

 言いたいことが盛り込まれて,推敲時間も短く,筆者としては一応満足できる出来栄えになりました.

6.ChatGPTの推論プロセス

 上で述べたように,一見すると意味がよくわからない文章を,ChatGPTは改訂して,ある程度意味がわかる文章に変えました.ChatGPTはどのようなプロセスでそれを行ったのか,とても興味があります.ChatGPTの機能を発現させているのは,大規模言語モデル(LLM)です.だから,上のことは,LLMは与えられた文章に対して,指示されたことをどのように実行するのか,と言い換えられます.

 LLMは大量の文章(テキストデータ)を取り込み,自分で自分をトレーニングします.その基本は,ある言葉に対して次に来る言葉を確率的に予測するものです.今回は筆者の指示に従って文章を改訂しました.それは筆者の期待値以上のよい出来栄えでした.それは,筆者の予測を超えた高度な「知的」作業で,高度な「推論」と言ってもよいです.

 ここで,「知的」とか「推論」と書きましたが,これらは人間が持っている能力であり,人工知能というアルゴリズムで動く電子的ツールにはふさわしくないです.しかし,このような言葉を使うと,LLMの作業を理解しやすいので,「推論」など人間の知的作業の言葉を使うことにします.

 さて,その推論がどのようにして発現されるのかは,LLM自身もそれを設計したエンジニアにも,実はまだわからないのです.人間が創ったものでアルゴリズムで動くものなのですが,LLMの自己トレーニングの結果,LLM自身も人間も,LLMの中でどのようなプロセスで推論がなされているのか,まだわかっていないのです.これは私たち素人には不思議に思えますが,事実です.現在,それを明らかにしようと,いくつか研究が行われています.どうやら,LLMは人間の言葉を理解していないが,人間が書いたほぼすべての言葉がどのようにつながるのかを把握しているようです.その結果,言葉と言葉のつながりなどから,滑らかで自然な文章をつくれるようです.そして,人間が行う推論とは違うプロセスで,人間の推論に対応するような機能を発現しているようです.興味のある方は,次の文献をご覧ください.

●日経サイエンス,2023年8月号,特集 数学する脳とAI,p.26-49.

●“ChatGPT broke the Turing test — the race is on for new ways to assess AI”, Nature, 619, 686-689 (2023) (2023.7.25).

●“ChatGPT is a black box: how AI research can break it open”, Nature, 619, 671-672 (2023) (2023.7.25).

 さて,今回の音声入力原稿の改訂も,基本はある言葉に対して次に来る言葉を確率的に選択することでしょう.つまり,最も頻度の高そうな言葉を選択することでしょう.そのとき,繰り返される言葉はまとめ(指示どおり),意味がないと判断される言葉を削除し,つじつまが合うように言葉を変えて(まるで変換ミスが直されたように感じられる),確率論的に適切な言葉を選択しているようです.

7.ChatGPTは使えるか

 さて,音声入力原稿の改訂にChatGPTは使えるか,ですが,筆者は使えると思います.上で述べたように一見すると文字が連なっただけで脈絡のない文字群に見える文章を,読めて推敲する気にさせる文章に改訂してくれます.原稿作成の時間を節約し,なによりもストレスを低減してくれるのは大きなメリットです.いろいろと工夫すると,よりよいアウトプットが得られるでしょう.


以上

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