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研究レポートの推敲・助言・指導の方法 【レポートをブラッシュアップするテクニカルライティング】

目次

1.はじめに

Natureというイギリスの学術論文誌があります.
この論文誌は週刊で電子版と冊子で刊行されており,
自然科学の一流論文が掲載されています.

Natureは学術論文だけではなく,
科学研究に関する論文や記事も掲載されています.

最近のNature電子版(2018.10.8.)に,
投稿論文の審査(peer review)に関する記事
(“How to write a thorough peer review”,Mathew Stiller-Reeve著)
が掲載されていました.

この記事は論文誌に投稿された論文を
同じ分野の科学者がどのように審査したらよいかを述べたもので,
審査のポイントが的確に指摘されています.

この記事は一見科学技術文の書き方に関係なさそうです.

しかし,私たちが研究レポートを書くとき,
原稿を書いたら見直しも推敲もしないで提出する人はまずいないでしょう.

ときには友人や同僚から,
「レポート書いたのだが,ちょっとみてくれない?」
と査読を頼まれることもあるでしょう.

さらに,上司として部下が提出したレポートを査読して内容をチェックするでしょう.

そのようなとき,この記事の「論文の審査方法」は役に立ちます.

記事の内容は,私たちが自分の研究レポートを推敲するとき,
友人・同僚のレポートを査読して修正するところを助言するときや,
上司として部下のレポートの書き方を指導するときの参考になります.

なので,以下に研究レポートに関するところに絞って,記事の要点を記します.
次に,それをレポートの推敲・助言・指導に活かす方法について述べます.

2.記事の内容

1)記事は審査に慣れていない研究者向け

科学研究者は自分の研究に打ち込み,
その成果を論文にまとめることはできますし,慣れています.

でも,ベテランでなければ,研究者は論文審査には通常は慣れていません.
この記事はそのような研究者が審査員を依頼されたときを想定して,
投稿論文の審査方法を述べています.

2)審査の方法

①審査全般について

審査を依頼されたら特別の理由がない限り引き受けることを薦めます.
審査に当たっては公平で,建設的に批評することを心がけてください.

投稿論文が自分の専門外でも,
審査員の専門が活かされる箇所がありますので,
その立場で貢献できることに集中するとよいです.

査読時はメモを取りながら読みます.
論文欠陥を大きな欠陥と小さな欠陥に分けます.
大きな欠陥とは修正するのに労力を要するものですし,
小さな欠陥とは修正が容易なものです.

②投稿論文の査読

論文審査では対象論文を3回査読します.


(a)1回目
論文の全体を把握し論文の目的を理解します.
論文が掲載誌のカバーする範囲にあることを確認します.

読後,審査員が理解したこの論文の目的,
結果および新奇性(新規性)を書き出します.
それは審査員による論文の複製といえるもので,審査員が解釈したことです.

それは著者のものとは違うかもしれませんが,
まさにその点が著者に修正を求める箇所になります.

もし,論文に致命的な欠陥があれば,その時点で審査は中断します.
なければ,2回目の査読に入ります.


(b)2回目
研究の内容(実験方法,解析と結論)をみます.このとき次の事項に留意します.

要旨と緒言は,研究の必要性と意義を明確にしているか.

緒言で提示された課題が解決される方法論がとられているか.

結果は明確で論理的であるか.それらはデータによって証明されているか.図はクリアーであり過不足なく描かれているか.

結論は,緒言で提示された課題を解決しているか.これは重要です.


(c)3回目
文章表現に集中します.

つまり,論理的に記述されているか,
パラグラフがつながるように書かれているか,
見慣れない略号が使われていないか,
などを検討します.

文章をブラッシュアップしてあげるのもよいです.

3)審査意見

審査意見は以下のようにまとめます.

①緒言

投稿論文の概略を述べます.
審査員としての論文に対する見解を述べます.

投稿論文が採択できるか,致命的な欠陥があるかを述べます.
欠陥は大きな欠陥と小さな欠陥に分けて次に述べます.

②大きな欠陥(修正に多大な労力と時間を要する欠陥)

大きな欠陥があれば,それを指摘します.なければここは不要です.

③小さな欠陥(修正が容易な欠陥)

小さな欠陥を述べます.

④その他,助言とコメント

その他,審査員として指摘すること,投稿者に対する助言とコメントを記します.

審査意見を書き上げたら,それを注意深く読みます.
このとき,声を出してよくことを薦めます.

読んでみて引っかかるところがあればそこを修正します.
審査の黄金律は

「自分の論文が第三者によって審査されるときの気持ちで,
他人の論文を審査する」

です.

3.研究レポートの推敲・助言・指導への応用

上で述べた審査の方法は,レポートの推敲・助言・指導に応用できます.
特に,自分のレポートの推敲に慣れていない人や,
他人のレポートの査読をあまり経験していない人に役立つことが多いです.

1)査読を頼まれたら引き受ける

レポートの査読を頼まれたら,原則として引き受けます.
他人のレポートの査読は,自分が書くときの参考になりますし,手本にもなるからです.

このとき,前項にも記されているように,公平に建設的に批評します.

「建設的に批評する」は,
レポートの査読を相手の立場にたって相手の役立つように行うことです.

「批評」は上から目線でケチをつけることではありません.

2)推敲・査読の心構え

自分のレポートを推敲するときの心構えは,「他人のレポートとして,自分のレポートを読む」です.
他人のレポートを査読するときは,「自分のレポートとして,他人のレポートを読む」を心がけます.

3)査読の方法

自分のレポートの推敲でも他の人から頼まれた査読でも,
論文審査と同様に,対象レポートを3回査読します.
そのやり方も同様です.


(a)1回目
レポート全体を把握し,その目的を理解します.
このとき,レポートの提出先が求めることとレポートの内容が合致しているかを確認します.

提出先(上司や先生)が,研究内容の詳細を知りたいのに概略しか書いてなかったり,
結論の意義を求めているのに実験の詳細だけを述べているのは,
明らかに求めていること内容がズレています.

このようなときは査読を中止し,書き手と内容を相談します.
気がついたことはノートを取ったり,
レポートの余白に書き入れて査読すればよいでしょう.

ただし,レポートに書き込むときはその許可を得てください.


(b)2回目
論文審査と同様に,研究の内容(実験方法,解析と結論)をみます.留意する点も論文審査と同様です.

要旨と緒言は,研究の必要性と意義を明確にしているか.緒言で目的が提示されているか.

緒言で提示された課題が解決される方法論がとられているか.

結果は明確で論理的であるか.それらはデータによって証明されているか.図はクリアーであり過不足なく描かれているか.

結論は,緒言で提示された課題を解決しているか,つまり目的が達成されているか.これは重要です.また,論旨が一貫しているかも重要です.


(c)3回目
ここも論文審査と同様です.文章表現に集中します.
次のことに留意します.

論理的に記述されているか.

パラグラフがつながるように書かれているか.

用語は正しく使われているか.

新しい言葉や概念は定義されているか.

見慣れない略号が使われていないか.
文章をブラッシュアップしてあげるのもよいです.

4)査読後のフィードバック

ノートのメモや余白への書き込みを見ながら,
修正事項とコメントを文章または口頭で友人・同僚・部下に伝えます.

自分のレポートなら以下のことに留意して推敲します.

①レポートの内容について

レポートの内容は提出先が求めていることに合致しているか,を伝えます.
NGならレポートは書き直すことを薦めます.
OKなら修正事項を以下のようにまとめて伝えます.

②修正事項

(a)大きな欠陥
大きな欠陥があれば,それを指摘します.
ほとんどは2回目の査読の留意事項に関することです.
なければここは不要です.

(b)小さな欠陥
小さな欠陥を述べます.
図表の作り方,他研究からのデータ引用とその解釈,文献の引用方法,
パラグラフ内の文章構成や文章表現,などです.
対象者が初心者の場合は,文章の修正も多いかもしれません.

(c)その他,助言とコメント
その他,指摘しておきたいこと,助言とコメントを記します.
労をいとわず指摘するとよいです.

4.まとめ

学術論文誌Nature電子版(2018.10.8.)に
投稿論文の審査(peer review)に関する記事が掲載されていました.

この記事は,私たちが研究レポートを推敲したり,
他の人のレポートを査読して助言や指導するときの参考になります.

1)記事の内容

①投稿論文の査読

論文審査では対象論文を3回査読します.

1回目は論文の全体を把握し論文の目的を理解します.
もし,論文に致命的な欠陥があれば,その時点で審査は中断します.
なければ,2回目の査読に入ります.

2回目は研究の内容(実験方法,解析と結論)をみます.

3回目は文章表現に集中します.

②審査意見

審査意見は,最初に投稿論文の概略を述べ,
審査員としての論文に対する見解,つまり投稿論文が採択できるか,
致命的な欠陥があるか,を述べます.

欠陥は大きな欠陥と小さな欠陥に分けて次に述べます.

最後に助言とコメントを述べます.

2)研究レポートの推敲・助言・指導への応用

上で述べた審査の方法は,レポートの推敲・助言・指導に応用できます.

①推敲・査読の心構え

自分のレポートを推敲するときの心構えは,
「他人のレポートとして,自分のレポートを読む」
です.

他人のレポートを査読するときは,
「自分のレポートとして,他人のレポートを読む」を心がけます.

②査読の方法

論文審査と同様に,対象レポートを3回査読します.
そのやり方も同様です.

③査読後のフィードバック

友人・同僚・部下に修正事項とコメントを伝えます.
自分のレポートなら以下のことに留意して推敲します.

まず,レポートの内容は提出先が求めていることに合致しているか,を伝えます.

NGならレポートは書き直すことを薦めます.

OKなら修正事項を,大きな欠陥と小さな欠陥に分けて伝えます.

ついで,その他言っておきたいことと助言・コメントを伝えます.


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