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論理的に考える―論理的思考の基本―【テクニカルライティング】

目次

1.論理的思考はテクニカルライティングの重要なキー

科学技術文は論理的に書かれています.

論理的に考えられないと,論理的に書くことはできません.

テクニカルライティングの基本で重要なキーは,論理的思考力です.

2.論理的思考には思考空間を整備する

論理的思考も含めて,考えるという知的活動は,生物学的には頭脳の働きです.

でも,私たちは,考えるとは心の働きと認識しています.
心という概念的な空間で考えるという活動が行われていると,認識しています.

なので,考える心の空間を,ここでは思考空間と言いましょう.
当然,論理的思考もこの思考空間で行われています.

論理的に考えるために何をおいても重要なことは,
思考空間を整備することです.
機械は整備しないとその能力を発揮しません.

同様に,思考空間も十分に整備されないと論理的に考えることはできません.

それは,論理的思考の前提条件を整えることであり,
論理的思考の基本を身に付けることです.

具体的には,①言葉で考える,②考える範囲を決める,
および③考える場を整える,です.以下に説明します.

3.言葉で考える

人は言葉で考えます.それは考えるという活動の基本中の基本です.

1)言葉で考える

私たちは日本人ですから,一般的には考えるとき日本語を使います.

「当たり前じゃないか」と言われそうです.
でも,これは大事なことです.しばらくご辛抱願います.

言葉を使わないと考えられません.
「ウーン」とうなって腕組みをして天井を見上げていても,
それは考えることにはなりません.

いま「犬は動物である」について考えているとします.
「犬」「動物」という言葉で考えます.

「いぬ」という言葉を口にすると,思考空間では,
犬の具体的な姿が浮かび犬の習性や性質を考えることができるようになります.

「動物」についても同様です.
このとき,対象が明示される言葉を使い,明快でわかりやすい言葉を使います.

そうすると様々な言葉が思考空間に飛び交い,言葉と言葉が化学反応して,
別の言葉に変化したり違うことを考えつき,思考が進みます.
それが考えるという知的活動なのです.

言葉にすることは考えることの出発点です.
対象を明示し,明快な言葉,わかりやすい言葉で考えると思考が進みます.
できる人は,考える対象と中身を言葉にしています.

2)命題で考える

言葉をつないで文とします.

1つの主語と1つの述語で,ある1つのことを述べます.

考える対象を「何が」(主語)として示し,
それが「どうした」(述語)を述べて,文にします.

これが考える最小単位です.

一般化すると「AはBである」(ここでAは主語,Bは述語を示します)という文になります.

この文を命題といいます.文をわざわざ命題と言う理由は次節で述べます.

たとえば,「犬」と「動物」との関係について考えているとします.
そのとき,「犬は動物である」と文(命題)を作ります.
「犬は」は主語で,「動物である」は述語です.

3)命題には真と偽がある

「犬は動物である」という命題は,真実(真)か虚偽(偽(ぎ))か,どちらかです.

それは何らかの手段で調べることができます.

このように,真偽を調べることのできる文を命題といいます.

論理的に考えるには,思考の最小単位である命題の一つひとつについて,
その真偽を判定することが大事です.

判定された命題を組み合わせて考察を進めていくのです.

たとえば,命題「犬は動物である」は,
犬は動物の一種類ですから,真です.

その詳しい調べ方や考え方は,論理ツール①で述べます.
(論理的に考える ―論理ツール①(基本論理語)とは―)

4.考える範囲を決める

考える範囲を決めます.そうすると思考が容易になります.

1)考える対象を小単位化または簡単化する

考える対象は一般的には大きくて複雑です.
これでは思考が発散してしまい収拾がつきません.

そこで,論理的に考えるとき,考える対象を小さな単位に分けたり(小単位化),
対象を簡単(簡単化)にします.

このうち重要なことまたは簡単なことから考えていきます.

小単位化や簡単化により考える対象が小さくなりますから,思考が楽になります.
これが考えることを容易にする秘訣です.

たとえば,いま犬という動物について考えているとします.
これだけでは広すぎますから,対象を小さく分割して,
秋田犬,柴犬などの小単位に分け,それぞれについて考えます.
小単位に集中すればよいのですから,思考の負担が少なくなります.

もう一つ例を示します.
顧客からのクレームを取り上げます.

顧客からのクレームが発生しました.
クレームは緊急に対応すべきですが,すべてを一度に対応できません.

そこで,クレームを小さな単位の課題に分けます(小単位化 課題ばらし).

クレーム発生ロットの品質検査実績調査,
そのロットの再検査,クレーム内容の調査などなどです.

これらのうち,重要なこと(クレーム発生ロットの再検査など)から対策を取ります.

簡単化の例を示しましょう.

物体の運動に関して,
物体に及ぼす力の大きさと物体の運動について考えているとします.

これでは漠然として大きすぎますから,取り扱う事項を簡単化して,
平滑な平面上の台車に対する引っ張り力と台車の直線運動とします.
平滑な面上の台車を検討するのは,摩擦が無視できるからです.

このように簡単化すれば,物体の運動の本質にせまることができます.

2)前提条件を確認する

思考の出発点(どこから考えるのか)と境界(どこまで考えるのか)を確認します.

それ以上思考しない境界を決めるとも言えます.
考える対象が一定の範囲に限られます.
思考はこの範囲内に留めます.
思考を集中させると同時に横道に逸れない心構えでもあります.

ここ大事です.どうも私たちは前提条件を明確にしないで,思考したり議論を始めることが多いです.

数人で議論していて,そろそろ結論をまとめようかというとき,
前提条件を超えた指摘をする人がいます.

たとえば,「平滑な平面上の台車の直線運動」について議論していて
一つの結論に達しそうになったとき,
「ところで凹凸面の立方体についても検討すべきだ」と指摘されたら,
前提条件を逸脱し議論は発散してしまいます.

まさに,ちゃぶ台返しです.自分で思考しているときも同様です.
このようなときに備えてという意味も含めて,前提条件を確認しておくのです.

5.考える場を整える

次は考える場を整えることです.

以下の3つが確実にできれば,論理的思考の基本をマスターしたことになります.

1)座標軸で考える

考えている対象を2次元座標や3次元座標にプロットして,
それらを位置付けたり,その変化を目で見えるようにします.

こうすると,対象間の相互関係を可視化でき,思考が容易になります.
理系の人であれば,これはほぼ習慣化していますので,容易にできるでしょう.

たとえば,「犬は動物である」を考えるとき,
2次元座標を紙に書き,そこに「犬」の領域を描き,
ついで「動物」の領域を描くと,犬は動物の中に入ることが明白になります.

2)定義して考える

言葉を定義することは重要です.
特に,次に述べる抽象概念を使うとき大事です.

言葉を定義することによって,思考の対象と範囲を明確にできます.

逆に定義しないで思考すると,途中で言葉の示していることが変わり,
思考が最初とは違う方向に行ってしまいます.

複数の人たちで議論しているなら,
各人の定義が異なればそれぞれの指し示すことが違い,
思考はバラバラになり収束しません.
言葉は明確に定義すべきです.

上の例で,「犬」と「動物」を定義します.

「犬」は「狼を家畜化した生き物で,
ワンワンと鳴き愛嬌のある生き物」と定義し,

動物は「自由に移動できるための器官を持ち,
成長と生存のため植物や動物を食べる生き物」と定義します.

定義することにより,思考の対象はこの定義内に限定されます.
思考の範囲が決まります.

他は考える対象ではないのですから,思考は省エネルギーになります.

「犬は動物であるか」を考えているなら,定義に基づき,

犬は「自由に移動できるための器官を持っているか」,
「成長と生存のため植物や動物を食べる生き物であるか」を検討します.

これらを犬は持っていますから,「犬は動物である」は真だと結論づけられます.

ちなみに,このように犬が持っている特徴や性質を,犬の属性といいます.

論理的に考えるとき,ものごと(事象)の属性について考えることは多いですから,
この言葉を覚えておくと便利です.
 

3)抽象化して考える

広くて深い思考をするには抽象概念を使います.

具体的な事象を統合した抽象概念を使うと,思考は拡大し深化します.

抽象概念は日常のどんな思考でも使っていますから,それを用いることは容易なはずです.

たとえば,「犬は動物である」は,
「犬」「動物」という抽象概念を使っており,何の違和感も抱きません.

しかし,理系でも文系でもある専門分野の事項を考えるとき,
その分野に特有の抽象概念を表す専門用語を使います.

日常生活では見ない難しい漢字や外国語で書かれており,
とっつきにくく意味もわからないことが多いです.

そのような専門用語は意味を定義し,具体的事象で実験するか,
それが使われている状況を描いたり,情景を思い浮かべれば理解しやすくなります.

熱力学第一法則の説明を例に取りましょう.

まず,具体的事象です.
水蒸気で満たされた空間と移動できるピストンを備えた熱機関を考えます.

この機関に外から熱が供給されると,水蒸気は膨張し
,ピストンは押されて外に移動します.

これは,外から供給された熱エネルギーの一部は水蒸気のエネルギーに加わり,
他の一部はピストンを押すのに使われたことを示します.

その結果,ピストンは外に押されて一定の距離を移動します.
外から見れば,ピストンに押されて,外の状態が変わりました.
いずれも熱機関の状態が変化しました.これを変位といいます.

これを抽象概念で説明します.
まず,抽象概念を表のとおり定義します.
この抽象概念を使って上の事象を説明します.

熱機関を系とします.
外界から熱Qが系に供給されると,
そのエネルギーは,系の内部エネルギーUを増大させ,
系は外界に仕事Wをします.

このとき,内部エネルギーの変化をΔUとすると,ΔU=Q-Wの関係が成り立ちます.

簡潔に系の熱エネルギーによる変化を記述しています.
抽象概念を用いるメリットです.

確かに言葉の表現は少し難しいです.
系の状態変化を厳密に示したいので,
どうしてもある程度難しい書き方になるのはやむを得ないです.
 

6.定義して抽象概念を使うのは難しい

どうも私たち日本人は,言葉を定義する,
特に抽象概念を定義して使うことが苦手のようです.

課題,言葉や抽象概念を定義しないで使ってしまいがちですし,
人により定義が違うのにそれを明確にしないで議論するので,
議論が発散してしまうこともよくありがちです.

課題を言葉で定義せず,むしろそれを深く心の中で感じ,
解決策を心で悟ることが価値ある解決方法と認識しているようです.

そのような日本人の思考のクセが言葉の定義を苦手にしているようです.

また,ある課題を考えるとき,課題,言葉や概念を定義して,
抽象概念を使って抽象的に考えるよりも,
具体的事項について現実的な解を求めることが得意のようです.

だから,抽象概念で考えてそれを言葉にすると,
理屈っぽいとかおおげさなどと非難されるのです.

このような日本人の思考のクセが抽象概念をうまく使えない要因と思われます.

上の熱力学を例に取ると,
ピストンをどれだけ大きく移動できるかは熱中して検討して,
ピストンと機関の滑り性改良や軽量化に熱心に取り組むでしょう.

でも,系に供給される熱Qに対して仕事Wを最大にするための方策という課題になると,
なかなか思考が進まないのではないでしょうか.

また,抽象概念で取り扱うと,系は熱機関に限りませんし,
仕事もピストンを押すことに限りません.

系を電池ととらえると,仕事は回路に電流を流すこととできます.

最初とはまったく違う分野に思考を飛躍させられます.
抽象概念は思考を広げ深めます.

7.まとめ

論理的思考の基本を以下にまとめます.

1)言葉で考える

①言葉で考える
私たちは日本語を使って考えます.
対象を明示し,明快な言葉,わかりやすい言葉で考えると思考が進みます.

②命題で考える
命題は主語と述語からなる文で,意味を考えることのできる文です.
考える対象の一つひとつを命題にして,それで考えます.

③命題には真と偽(ぎ)がある
命題には真と偽があります.
これは重要で,論理的思考は命題の真偽を判定しながら進めます.

2)考える範囲を決める

①考える対象を小単位化するまたは簡単化する
大きくて複雑な課題は考えられません.
なので,課題を小さな単位に分けます(小単位化).
または簡単にします(簡単化).
このうち,重要なことまたは簡単なことから考えていきます.

思考が楽になります.これが考えることを容易にする秘訣です.

②前提条件を確認する
思考の出発点と境界を確認します.
思考をその範囲内に留めます.思考を楽にすると同時に,横道に逸れない心構えです.

3)考える場を整える

①座標軸で考える
考える対象を2次元,3次元座標に展開して考えます.
対象の相互関係が可視化され,思考が容易になります.

②定義して考える
言葉,特に抽象概念を明確に定義します.
思考の対象と範囲を明確にするためです.

③抽象化して考える
具体的事象から抽象概念を抽出します.
抽象概念を定義し,抽象概念を使って考えます.
そうするとより広く深く思考できます.


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