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「ChatGPTを使ってみた 」生成AIをうまく使えば,理系人の知的生産力は向上するだろう

目次

1.はじめに

 ChatGPTが大きな話題になっています.このAIは人間の指示文プロンプトに対して,一見すると滑らかで筋道の通った回答文を出力します.ChatGPTなどの生成AIは,私たちの仕事や生活を一変させてしまうほどのとても大きな影響(悪い意味でもよい意味でも)を与えると予測されています.それは当然理系人の仕事や日常における知的生産にも関係すると思われます.

 そこで,理系人に関係することで実際に使ってみました.今回はその使用報告です.

2.ChatGPTは巨大な電子的ツール

 実際にChatGPTを使ってみると,確かに便利です.適切な指示文を入力すると,わかりやすくてある程度説得力のある回答が返ってきます.しかし,質問を数回繰り返すと,質問ごとにあたかも別人格のように異なる回答をします.また,質問によっては内蔵する情報を場当たり的に並べることがありますし,涼しい顔で嘘をつくこともあるのです.どうやら,ChatGPTは,外見的には賢そうで,多重人格のようなものを持つ人工知能と言えそうです.

 そこに人格を感じる人がいても不思議ではありませんが,ChatGPTはあくまでもアルゴリスムで作動する巨大な電子的ツールにすぎないのです.そのことも認識できました.

3.ChatGPTを使うコツ

 ChatGPTを使うコツは,適切な指示文をつくることです.あいまいな指示文だと回答もあいまいになります.指示文のポイントは,何をしてほしいのか具体的に書く,制限または条件を明確に書く,です.このことはすでにあちこちで指摘されていますが,それを改めて確認することができました.

4.ChatGPTを使うには批判的思考力が必要

 一方,ChatGPTを使うときに留意すべきこともあります.それは,ChatGPの出力したものには,嘘が含まれる可能性があるから必ず検証することです.また,著作権を侵害していないか,チェックしなければなりません.このことはNature誌はじめ多くの人が指摘しています.

 だが,それは「言うは易く行うは難し」の典型例です.AIという優れた人工知能が出す答えは正しいと思いがちです.なので,どうしても無批判的にそれを受け入れて真実と認識してしまいます.検証やチェックと言われても,それが大事だと認識していてもなかなか実行できません.

 それができるには,批判的思考力をより高めることだと思います.つまり,私たちは従来以上に,筋道の通らないところや矛盾する箇所を見つけ,それを修正する力を養わねばならない,と思います.

 自己訓練する方法は,日常生活(仕事も含めて)で出会うことに対して,「それは本当か?」と考えてみることです.また「別の角度や逆の立場から見ると何が言えるか?」と自分に問いかけることです.そして,答えを自分で考えてみます.これを身近なことを題材にして,すき間時間を使って実行します.最初は難しいですが,少しずつ慣れていきます.そうすると,いかにも本当らしいフェイクを見破ることもできるようになります.そうなると,ChatGPTの出力も,「本当なのか?」と考える習慣がつきます.

 ChatGPTをあまりすごいと思わないことも大事です.それは,批判的思考力と共に,ChatGPTをうまく使うために留意すべきもう1つの事項と思います.まず,自分のよく知っていることを聞いてみましょう.そうすると,意外に(というか当たり前ですが),賢くなくて,あなた自身がよく知っている情報を出力しますし,嘘も入っていることもあります.ChatGPTの文章中に嘘を発見すると,「なあんだ,たいしたことないや」と思うし,一方では「これは気をつけなければ!」と思います.そうすると,過剰な期待やAIは間違えないという変な思い込みもなくなるでしょう.

 上で述べたことに留意すれば,ChatGPTのような生成AIは便利なものと,筆者は思います.生成AIは人の仕事を奪うと,頑迷な保守的な思考をしなくてよいです.ChatGPTに限らず生成AIをうまく使いこなすと,私たちの知的生産力は向上するでしょう.そういう意味では私たちはよい時代を迎えているのです.

5.結論

 結論は以下のとおりです.

 ✔ChatGPTはよい指示文をつくると,まあまあ満足できる内容を出力してくれます.コツは,聞きたいことを具体的に記し,記述に関する条件を明確に記す,つまり明晰な指示文をつくることです.そのようにしてChatGPTをうまく使うと私たちの知的生産力を高めてくれると思います.

 ✔とはいえ,それを鵜呑みすることは危険です.必ず他の文献などで検証する必要があります.これは何もChatGPTに限ったことではありません.私たちが入手する多くの情報にも言えることです.ネットには偽情報がありますし,真偽定かでない情報もあります.

 ✔だから,私たちには批判的思考力がより必要なのです.「それは本当か?」,「別の角度から考えるとどうなるか?」と自問自答することが大事です.

 ✔ChatGPTをすごいものだと思い込まないことも大切です.それには自分のよく知っていることを聞いてみることです.

 ✔上のことに留意すれば,ChatGPTなど生成AIは,私たちの知的生産力を高めてくれるでしょう.



6.ChatGPT使用例

 筆者がChatGPTを使った事例の一部を紹介します.日本語や英語でいろいろと指示しましたが,主に日本語の例をいくつか示します.感覚的な印象では英語の方がより適切な回答をしているように思えますが,日本語でも適切な指示文を書いて,出力したものの間違いを修正すれば,うまく使えると思います.

 以下に,ChatGPTに指示したこと,ChatGPTの出力及び筆者のコメントを記します.なお,ChatGPTの出力では,句読点は,「。」と「、」ですので,そのまま示してあります.

1)小学生の理科の勉強

 小学生になったつもりでChatGPTに理科(植物の根の働き)について聞いてみました.

指示文1
 あなたは小学生です.植物の根の働きについて200文字でレポートにまとめなさい

ChatGPT回答1 220文字
 植物の根はとても大切な働きをしています。まず、根は植物を土地にしっかりと固定します。それによって、風や雨が吹いても倒れないようになります。また、根は土壌から水と養分を吸収します。これによって植物は成長し、元気になります。さらに、根は土壌の浸食を防ぎます。大雨のときでも土が流れないように固めてくれるのです。根はまた、酸素も吸収します。植物も私たちと同じように酸素を必要としているのですね。根は植物の命を支える大切な役割を果たしているのです。

コメント
 文字数は220文字と少しオーバーしたが,よくまとまった文章で,わかりやすいです.
でも,[根は土壌の浸食を防ぎます。大雨のときでも土が流れないように固めてくれるのです。根はまた、酸素も吸収します。植物も私たちと同じように酸素を必要としているのですね]は,日本の小学校では教えていません.なので,たとえば,これを宿題の回答として小学生がこのまま提出したら,先生は×と判断するでしょう.文部科学省は宿題の回答として生成AIの出力を提出してはいけないとの意向です(それは正しい見解です).

 しかし,勉強の参考資料として使うのなら,問題ありませんし,よい教材になります.そのとき,上の[ ]で囲った部分をどのように考えますか?「小学校で教える範囲を逸脱しているから,けしからん」と頭の固い対応をしますか?それとも「小学校では習わないが新しい知識を得て根の働きがよりわかった」と好意的で前向きの対応をしますか?どのように考えるかは,受け手に任されています.

2)大学生の化学の勉強

 大学で学ぶ酸と塩基の定義と機能についてChatGPTに聞いてみました.

指示文2
 あなたは大学生です.ルイス酸とルイス塩基の定義と機能を,以下の条件で説明しなさい.
 ・他の定義の酸・塩基との違いを記しなさい.
 ・大学の化学コースのレポートとしてまとめなさい.
 ・200文字で日本語で記しなさい.

ChatGPT回答2 224文字
 ルイス酸は電子対を受け入れる物質であり、ルイス塩基は電子対を提供する物質です。他の定義との違いは、ルイス酸と塩基はプロトンの受け渡しを必要としません。ルイス酸は電子不足を持ち、ルイス塩基は電子余剰を持つ分子やイオンです。ルイス酸は反応中で電子対を受け入れることで化学反応を促進し、ルイス塩基は電子対を提供することで反応を進行させます。ルイス酸・塩基の定義は広範な化学反応の解釈に役立ち、金属錯体形成や有機合成などの分野で重要な役割を果たしています。

コメント
 文字数は少しオーバーしましたが,ほぼ指定された文字数で,過不足なくルイス酸・塩基について説明してあります.大学生のレポートとしてほぼ満足できる内容です.ただし,文章はぎこちなく違和感を抱きますし,[受け入れる],[提供する]や[受け渡し]という用語は,間違いではありませんが,それぞれ,[受容],[供与]や「授受」とするのがベストです.また,理系文は「だ・である」調で書くべきで,「です・ます」調のこの文章はいかにもどこかから取ってきたという印象を与えます.だから,この文章をこのままレポートとして学生が提出すれば,教員ははたして学生が書いたものか疑問を持ち,及第点を与えないか,内容について学生に質問するでしょう.

 しかし,勉強の取っかかりや参考資料とするのなら,問題ありません.この文章を参考にして教科書の該当箇所を勉強して,自分が理解した言葉と理系文の体裁に合致して書けばよいです.

 つまり,ChatGPTが提供したものは取っかかりや参考資料として,勉強の足がかりとするとよいのです.

 また,指示文はこの例のように,聞きたいことと記述の制約条件を明記すると,ほぼ問題のない文章を出力します.

 さらに酸と塩基に関する指示をいくつか行いました.その1例を以下に示します.

指示文3
 あなたは大学生です.酸と塩基の定義と機能を,大学の化学コースのレポートとして,300文字で日本語で記しなさい.

ChatGPT回答3 457文字
 酸と塩基は化学の基礎となる重要な概念です。酸は水溶液中で水素イオン(H+)を放出する物質であり、塩基は水溶液中で水酸化物イオン(OH-)を放出する物質です。これはブロンステッド・ローリーの定義です。一方、ルイスの定義では、酸は電子対を受け入れる物質であり、塩基は電子対を提供する物質とされます。この定義では、プロトンの受け渡しに限定されず、広い範囲の化学反応を説明できます。

 酸と塩基は多くの反応で重要な役割を果たしています。酸は他の物質と反応し、水素イオンを供与することで中和反応を起こすことがあります。塩基は酸と反応し、水酸化物イオンを提供することで中和反応を進行させます。また、酸と塩基は酸塩基反応で反応し、塩と水を生成します。

 酸と塩基はさまざまな分野で重要な役割を果たしています。医薬品の開発や環境科学、金属錯体形成など、化学のさまざまな分野で酸と塩基の性質と反応性が活かされています。これらの概念を理解することは、化学の基礎を固めるとともに、さらなる高度な化学研究や応用にもつながる重要なステップです。

コメント
 300文字という指示に対してオーバーしましたが,300文字という条件が問題だったと思います.確かに300文字では書ききれない内容です.

 3パラグラフからなる回答です.一読すると問題なさそうで,このままレポートとして提出する学生がいるかもしれません.しかし,この回答には問題点が3箇所あります.1つは,第1パラグラフの[これはブロンステッド・ローリーの定義です]です.これは間違いで,正しくは「これはアレニウスの定義です」とすべきです.このように,ChatGPTはさりげなく嘘を出力することがあります.2つ目は,ブレンステッド・ローリーの定義による酸と塩基が書かれていないことです.ChatGPTはこのときアレニウスとブレンステッド・ローリーの定義の区別がついていません.だから,このような回答になったのでしょう.3つ目は第2パラグラフの酸と塩基の反応の記述です.ここにはアレニウスの定義による酸と塩基の反応が書かれているだけです.ブレンステッド・ローリーとルイスの定義による酸と塩基の反応も記すべきです.第3パラグラフは問題ありませんが,人間がこの回答を書いたのなら,このパラグラフは割愛して3種類の酸と塩基の定義と反応を書いたでしょう.そういう意味ではこのパラグラフは,いかにもどこかから取ってきたものと思わせ,不自然な印象を与えます.

 この回答を学生がレポートとして提出したら,教員は上で指摘したことに疑問を持ち,文体に違和感を抱きます.だから,及第点を与えないか,内容について学生に質問するでしょう.

 このあと何回か指示文を変えて聞きましたが,このときは,ChatGPTはアレニウスの定義とブレンステッド・ローリーの定義の区別はできず,上と同様の回答をしました.その要因の1つは指示文の明晰さにあると思います.指示文3は指示文2よりあいまいで明晰さに欠けます.そこで,指示文に酸と塩基の定義は3種類あることを明記して聞いたところ,正しくアレニウス,ブレンステッド・ローリーとルイスの定義を出力しました(その回答は割愛します).

 ここで,ChatGPTを使ったことは問題ではありません.ChatGPTの間違いを修正して正しい答えを見つけることができるのなら,学生は酸と塩基を正しく理解できたのです.ChatGPTを勉強のツールとしてうまく使ったのなら,問題はありません.

3)企業の実験レポート作成

 次に,企業の技術者として実験レポートを作成させてみました.この中でChatGPTに判断を求めました.

指示文4
 あなたは企業の技術者です.以下の内容の実験を行いました.実験レポートを以下の制約条件に従い,書きなさい.

【制約条件】
・目標が電気伝導率が100000 s/cm以上の電子材料を開発している.
・3種類の試料,A1,B2およびC3の電気伝導率を測定した.
・測定法はXYである.
・A1の電気伝導率は100 S/cm,B2のそれは3600 S/cm,C3のそれは250000 S/cmであった.
・この中ではC3が最も大きい.
・どの試料が目標をクリアしたのか,判定しなさい.

ChatGPT回答
【実験レポート】
 目標として掲げた電気伝導率が100,000 s/cm以上の電子材料の開発に向けて、以下の3種類の試料(A1, B2, C3)の電気伝導率を測定しました。測定はXY法を使用しました。

 測定結果は、A1試料の電気伝導率が100 S/cm、B2試料の電気伝導率が3,600 S/cm、そしてC3試料の電気伝導率が250,000 S/cmでした。これらの結果から、C3試料の電気伝導率が最も大きいことが明らかになりました。

 目標の電気伝導率100,000 s/cm以上をクリアしたのは、C3試料です。C3試料は目標を達成するために最も適した電子材料と言えます。

 今後は、C3試料のさらなる特性評価や材料改良を行い、電気伝導率をさらに向上させることに取り組む予定です。また、他の物性評価や応用試験も行い、C3試料の実用化に向けた研究を進める予定です。

 この実験により、目標とする電気伝導率を満たす材料開発の可能性が示唆されました。C3試料の優れた特性を活かし、さらなる研究や応用展開を進めることで、電子材料の分野における革新的な成果が期待されます。
以上が、実験レポートの概要です。 【文字数: 301文字】

コメント
 ほぼ満足できる内容で,草稿としては十分ですし,C3試料が目標をクリアしたと正しく判断しました.この原稿に,データを表またはグラフにまとめ,さらに自分なりの考察を加えて体裁を整えれば,完成稿になるでしょう.ただし,最後のパラグラフ[この実験により・・・]は不要と思います.

 制約条件を適切にすると,このようなレポートとして十分通じる文章を出力してくれます.レポートを書くのが苦手な技術者には,ありがたいし,工夫して使えば,使い勝手がよくなりますし,時間を節約できるでしょう.

 ただし,ChatGPTに企業内のデータや情報を出してよいのか,つまり営業秘密に該当するのか,そして他社との契約に該当していないかなどを考慮すべきです.さらに個人情報を出してよいのかも留意すべきです.これらは所属する企業の方針に従うべきです.

4)英文の翻訳

 英文を日本語に翻訳させてみました.用いた英語原文は,イギリスの哲学者バートランド・ラッセルのエッセイ“Philosophy for Laymen(素人のための哲学)”から最初の1パラグラフです.以下に指示文(含む原文),ChatGPT訳と拙訳を示します.

指示文5
 You are a translator from English language to Japanese one. Translate the following essay to Japanese.

 Mankind, ever since there have been civilized communities, have been confronted with problems of two different kinds. On the one hand there has been the problem of mastering natural forces, of acquiring the knowledge and the skill required to produce tools and weapons and to encourage Nature in the production of useful animals and plants. This problem, in the modern world, is dealt with by science and scientific technique, and experience has shown that in order to deal with it adequately it is necessary to train a large number of rather narrow specialists.

ChatGPT訳
 人類は文明社会が存在して以来、異なる種類の問題に直面してきました。一方では、自然の力を制御する問題、道具や武器を生産し、有用な動植物の生産を促すために必要な知識と技能を習得する問題がありました。現代の世界では、この問題は科学と科学的技術によって取り組まれており、経験からわかっていることは、これを適切に処理するためには、多数の狭い専門家を育成する必要があるということです。

コメント
 一応読める翻訳です.原文の[to encourage Nature]は訳していませんが,機械翻訳としてはよいできだと思いますし,このパラグラフの大意は理解できます.翻訳の下訳として十分なレベルと思います.

 しかし,このままでは英文直訳で,日本語文として理解しやすく自然な文章にブラッシュアップすべきです.

 以下の拙訳は,ChatGPTに訳させる前に作成しました.ご参考のため示します.拙訳の[ ]は訳者が補った文です.

拙訳
 人類は,文明社会になったときから,2つの異なる問題に直面してきた.1つは,自然の力を支配することである.それによって,道具や武器をつくるための知識とスキルを獲得し,また自然をなだめすかして手を加え家畜や野菜を生産するのである.これらのことは,現代では科学及び科学技術として取り扱われているものだ.そして,これまでの経験によれば,科学技術をうまく使うためには,[幅広い教養人よりも]むしろ分野が狭い専門家を大量に訓練する必要があるのだ.

以上

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