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主題文は簡潔で印象深い ―テクニカルライティングの言葉―

目次

1.日本語文は2つに大別できる

科学技術文も含めて日本語文は2つに大別できます.

1つは,主語と述語からなる文です.
見かけ上主語が省略されているものもあります.

何が何だ,どうした,どうする,を述べます.以下の文型です.

ここで,「が」と「は」は主語を示す助詞です.
「何が」や「何は」は主語です.

この「が」と「は」の違いは「助詞「が」と「は」は役割が違う」で述べました.
【助詞「が」と「は」は役割が違う ―テクニカルライティングの言葉―】

文例1
 新しい現象発見された
 太陽輝く
 夏暑い
 月地球の衛星だ

もう1つは,主題文です.
それは書き手の言いたいことを最初に掲げて,次にそれについて述べる文です.

書き手があることについて,
それを他と区別して取り出して説明したいとき,主題文を使います.

基本の文型を示します.

「Aは」が主題で,「は」は主題を示す助詞です.
書き手の言いたいことを提示するのが主題です.

それに主語と述語のある文節(何が何だ,何がどうだ,何がどうする)が続き,
書き手の言いたいことを具体的に述べます.

文例2
 科学者発見生きがいだ
 秋さわやかな日多い



主題文は日本語文の持つ大きな特徴の1つで,
文法学者三上章が提唱したものです
(「象は鼻が長い」三上章著,くろしお出版,1969年改訂増補版;「日本語の論理―ハとガ-」三上章著,くろしお出版,1963年)

主題文は日常の会話や文章でも,科学技術文(理系文)でも使われます.
私たちは日常あまり意識しないで主題文を使っています.
それで不自由を感じません.それでよいかもしれません.

でも,主題文の構成と特徴をよく知ると,
それをうまく使うことができ,書き手の言いたいことを,
印象深く簡潔に読み手に伝えることができます.

そこで,本稿は理系文における主題文の構成,特徴と使い方を述べます.

2.主題文とは

1)主題文の構成

主題文の構成を改めて述べます.

主題文は主題と主語・述語のある文節からなります.
文頭に主題を置き,主語・述語のある文節が続きます.

主題が最初にあること,続けて主語・述語のある文節が置かれることが特徴です.
主題は「それについて言えば」と捉えるとよいです.

主題に続けて,複数の文節が続くこともありますし,
修飾節や従属節(条件や理由・原因などを述べる)を含む場合もあります.

主題文の特徴は主題を最初にかかげることです.

助詞「は」は,他と区別してそれが示す言葉を取り出すという意味を持ちます.
それは「助詞「が」と「は」は役割が違う」で述べました.
「は」は主題文でも重要な役割を演じます.
【助詞「が」と「は」は役割が違う ―テクニカルライティングの言葉―】

基本文型は以下のとおりです.

しかし,以下の文型も少ないですが見られます.これについては後述します.

2)主題文は簡潔で印象深い

①主題文は簡潔で印象深い表現法

主題文が表現することを,文例3(文例2の第1文と同じ)で説明します.

文例3
 科学者発見生きがいだ

書き手が科学者について読み手に言いたいことがあるとき,
それを「科学者は」と,主題として書き始めます.

「科学者について言えば」という意味で,
「科学者について書き手が言いたいこと(主張)がある」のです.

続けて「発見が生きがいだ」とありますから,
「発見することが生きがいなのだ」と理解できます.

科学者について書き手が言いたいことを,簡潔に印象深く記しています.

②主題文の言い換え

文例3は以下のように言い換えられます.

文例4
科学者について言えば「発見が生きがい」である.

難しく表現すると次のとおりです.

文例5
科学者について言えば,科学者とは「発見が生きがい」の人間である.

このような文の解釈はことさら説明しなくても,十分理解しているでしょう.

むしろ,「そんな面倒なことをこれまで考えなかった」,
「そんな理屈っぽいことを言われなくても,十分わかっている」と言われそうです.

主題文は日本語文の大きな特徴です.
その意味を文の構成に基づいて理解することは,
わかりやすい理系文を書くうえで大事なことなのです.

だから,主題文を私たちがどのように理解するのかを,こまかく述べたのです.

さて,文例3をもう少し言い換えてみます.

文例6
 No.1 発見することが科学者の生きがいだ
 No.2 科学者は発見する.それが科学者の生きがいだ
 No.3 科学者が発見する.それが科学者の生きがいだ
 No.4 科学者が発見が生きがいだ

 
No.1からNo.3は文例3と同じ内容です.No.3は「は」を使わない文です.

でも,これらは文例3と異なり,
淡々と事実を述べているだけの印象になり文にパンチ力がありませんし,
何となく冗長な印象も持ちます.

やはり,文例3が簡潔で印象深い表現です.

No.4は文例3の「科学者は」を「科学者が」に変えたものです.
「は」も「が」も主語を示す助詞ですから,変えてもよさそうです.

でも,この文は意味がわかりません.
「が」は「は」と異なり主題を提示できないからです.

日本語のおもしろさですね.

③主題文の言い換え 別の例

主題文の意義を認識するため,言い換えを別の例文で行いましょう.

文例7
No.1 物性αは,試料Aが最も高い値を示した
No.2 試料Aが最も高い物性α値を示した
No.3 物性αが最も高い値を示したのは,試料Aである
No.4 物性αが試料Aが最も高い値を示した

No.1は基本的な構成の主題文です.
書き手はいろいろな物性がある中で「物性α」を取り上げて,
それについて読み手に伝えたいことがあるのです.

なので,「物性αは」を主題として文頭に置きます.
「物性αについて言えば」です.続けて「試料Aが最も高い値を示した」のですから,
試料Aが他試料(試料B,試料C)よりも物性αの最高値を示したと述べています.

物性αに関して試料Aが最高値を示すことがわかります.
No.2は同じ内容を主題を使わないで述べました.
淡々と事実を述べる文になります.

No.3は物性αの最高値を強調した文で,No.1とは少しニュアンスが異なります.

No.4は主題の「は」を「が」に変えた文で,意味がとれない文です.
主題を示す「は」は「が」に変えられません.

このように言い換えをしてみると,
主題文は簡潔で印象深く書き手の言いたいことを伝えてくれることがわかります.

3.理系文中の主題文

理系文中に主題文が現れる頻度を調べました.

ある学会機関誌の解説論文を調べたら,
頻度は6%(多い論文では12%)でした.

つまり,100の文があれば主題文は6文程度です.

多くはないですが,主題文を使うと,
書き手の言いたいことを1つの文に盛り込めますし,強調したいことも書けます.

理系文で使われる主題文の特徴を以下に示します.
なお,文例は論文の文を参照して新たに作成しました.

1)主題文は言いたいことを1つの文に盛りこめる―複数の文節を持つ

理系文の主題文は上の文例で示したような簡単なものではなく,
複数の文節を持つものが多いです.

これは主題として掲げたことを,その文ですべて説明しようとするからです.
1つの文で言いたいことが完結します.

でも,長すぎると意味がとれにくくなったり,主語が変化したり,問題が起こります.
注意が必要です.

文例8
化石燃料は,膨大な量が市民生活や各種産業で使用されており,大量のCO2が排出されている.

化石燃料について,2つの文節でその使用とそれにより発生するCO2が記されています.

この文を私たちは文例9のように読んで内容を理解しています(特に意識していないと思いますが).

文例9
化石燃料は,(それについて言えば)(その)膨大な量が市民生活や各種産業で使用されており,(化石燃料について言えば,その使用の結果)大量のCO2が排出されている.

私たちは文例8の文を文例9のように読んで,
文末まで意味を容易に理解します.

主題「化石燃料は」は,文末まで係っています.
だから,文例9のように読めて意味が理解できます.

では,文例9の「化石燃料は」を「化石燃料が」に変えてみます.

文例10
化石燃料が,膨大な量が市民生活や各種産業で使用されており,大量のCO2が排出されている.

この文を私たちは文例11のように読みます.

文例11
化石燃料が,(化石燃料の)膨大な量が市民生活や各種産業で使用されており,(化石燃料の使用の結果,または何か別の要因で)大量のCO2が排出されている.

「化石燃料」と「膨大な量が使用されているもの」は同じと認識します.

しかし,「大量のCO2が排出されている」のは,
化石燃料の使用によるものなのか確信が持てません.

化石燃料を使用したのでその結果大量のCO2が発生したとも読めますが,
他の要因でそうなったとも読めるのです.

「が」は文末まで係らないのですし,係り方が弱いのです.

それに対して「は」は文末まで係る(別の言葉で言えば,文末まで支配する)のです.
ここが「が」と「は」の大きな違いです.

主題文が書き手の言いたいことを1つの文で述べられるのは,
このような「は」の働きによるのです.

別の例をあげます.

文例12
π電子を持つ炭素材料は熱伝導性と電気伝導性がともに高くなるため,放熱材料の添加剤としての研究が提案された.

この文は,主題文が従属節「π電子・・・なるため」です.

このようなケースでも主題「π電子を持つ炭素材料は」は,文末まで係ります.
ここでも「は」の支配力は大きいのです.
この文を私たちは文例13のように読みます.

文例13
π電子を持つ炭素材料は(それについて言えば)(その)熱伝導性と電気伝導性がともに高くなるため,(π電子を持つ炭素材料について言えば)(それの)放熱材料の添加剤としての研究が提案された.

さらに文節を続けても,「は」はやはり文末まで支配します.
文例11に,さらに文節を付けた例を示します.

文例14
化石燃料は,膨大な量が市民生活や各種産業で使用されており,大量のCO2が排出されて,気候変動が引き起こされ,結果大型台風や季節はずれの高温など異常気象が頻発している.

主題「化石燃料は」が直接係っているのは意味的には,
「気候変動が引き起こされ」までです.

「結果」以降は「気候変動による異常気象」を述べていますが,
化石燃料が関係しています.

私たちは異常気象と化石燃料とが関係していると認識して,この文を読みます.

これも「は」が文末までを支配する力なのです.


では,主題と関係の薄い事項を,主題文に入れるとどうなるでしょうか.
文例11で行ってみましょう.

文例15
化石燃料は,膨大な量が市民生活や各種産業で使用されており,大量のCO2が排出され,気候変動が引き起こされ,風水害が頻発しているから,それに対する不断の備えと心構えが必要だ.

この文は「風水害が頻発しているから」以降は
主題「化石燃料は」と直接関係しない文節です.

この文は文例16のように読めます.
「風水害が頻発しているから」以降が主題とつながりにくいことがわかります.

文例16
化石燃料は,(それについて言えば)(その)膨大な量が市民生活や各種産業で使用されており,(化石燃料について言えば,その使用の結果)大量のCO2が排出され,(化石燃料について言えば)(CO2排出の結果)気候変動が引き起こされ,(化石燃料について言えば)(気候変動が要因の)風水害が頻発しているから(私たちは)それに対する不断の備えと心構えが必要だ.

「は」の威力で主題が文末まで係るように読みますが,
下線部以降の意味をうまく取れません.
主題との関係が薄いからです.

だから,この箇所は理解困難です.どうすればよいのか.

解決法は,

①「気候変動が引き起こされ」で文を終わらせ,主題の支配力を取り去る,
②後ろを「私たちは」を主語とする文に変える,

です.

そうすると,素直に理解できる文になります.

それを文例17に示します.
主題と違うことが別文で書かれますので,容易に理解できます.

文例17
化石燃料は,膨大な量が市民生活や各種産業で使用されており,大量のCO2が排出され,気候変動が引き起こされた.それが要因の風水害が頻発しており,私たちはそれに対する不断の備えと心構えが必要だ.

主題文にいろいろなことを盛りこむと,かえって理解しにくい文になります.

主題についての記述に留めるべきで,
それから派生することや外れることは別文にすべきです.

これが主題文をうまく書くコツです.

2)主題の後ろの主語を「は」で示すと主語を強調する

主題は「は」で示し,続く文節の主語は一般的には「が」で示します.
しかし,「は」で示す例も少数ですがあります.

調査したところ,主語を「は」で示す文の出現頻度は,主題文のうち18%でした.

主語を「は」で示すとその主語を強調し,書き手の言いたいことがより明確になります.

文例18
黒色染料は,光透過性は低い.
当社デバイスAは,耐久性が他社対抗品より劣り,その改良は喫緊の課題である.

 
主題に続く文節の主語が「は」で示されると,「ん!?」との感覚になります.

「は」は特にその言葉を選び出しますので,
読み手に「意外だ」との感覚を持たせたり,
主語を強調する効果が生まれます.

主語が読み手の関心を引きそれが強く印象づけられ,
書き手の言いたいことがより鮮明になります.

否定文や逆接文で「は」を使うと効果的です.

文例19
酢酸はpKa値が4.8と高く弱酸であり,鉄は溶解されない
デバイスAは,単体で使用されることはない
材料Aは製造プロセスは複雑だ,多くの応用が提案されている.
材料Aは市場αのシェアは高い,市場βのそれは低い.

「は」を使うと,否定の内容や逆接がより強調されます.
「は」をうまく使うと効果的です.

4.まとめ

1)日本語文は

①主語・述語からなる文と,

②主題を持つ主題文

大別できます.


2)主題文は,書き手の言いたいことを最初に提示して,
次にそれについて述べる文です.

基本の文型は以下のとおりです.

「Aは」が主題で,書き手の言いたいことを提示します.

続けて主語と述語のある文節(何が何だ,何がどうだ,何がどうする)で,
書き手の言いたいことを具体的に述べます.


3)主題文は書き手の主張を簡潔に印象深く伝えられる文です.

それをうまく使うと書き手の言いたいことを効果的に伝えられます.


4)理系文で主題文の出現頻度は6%です


5)理系文で現れる主題文は,主題の後に複数の文節が続くことが多いです.

主題に直接関係することのみを書き,それから外れることは別文にするのが,
主題文をうまく書くコツです.


6)理系文では,主題の後ろの主語を「は」で示す文が少数ですが,あります.
これは読み手の関心を引き,主語が強く印象づけられると同時に,
それを強調します.結果,書き手の言いたいことがより鮮明になります.


以上

著書紹介
『理系のための文章術入門』

科学技術文の書き方を,易しく解説した入門書です.
本書の特徴は以下のとおりです.

①重要な部分をカラーにして強調したり,ポイントを枠で囲むなどして,ビジュアルな誌面とし,内容をつかみやすいようにしています.

②日本語の構成と特徴を述べ,次いで理系文の構成と特徴を,日本語文のそれと比較しながら述べ,両者の違いがわかるように配慮してあります.

③科学技術文の構成と特徴を「理系文法」として体系化したので,科学技術文の書き方を体系的に困難なく習得することができます.

④科学技術者が書くさまざまなスタイルの文章(レポート・卒論・企業報告書など)を示し,書き方を具体的に解説しました.

いろいろなスタイルの文章に慣れ,それらを書くスキルを身につけることができます.
本書で学ぶことにより,科学技術文書作成の達人になれます.
著書紹介『理系のための文章術入門』