目次
1.はじめに
文章を読み解く力は重要です.
私たちは毎日仕事や日常生活で多くの文章を読み,
意味を理解して何らかの判断を下しながら仕事や生活をおくっています.
スンナリと読めてスッキリと理解できる文章だけなら毎日が楽しいでしょう.
しかし,複雑な構成の文章も多くあります.
このような文章の意味を読み解くのは容易ではありません.
確かに複雑な文章は理解しにくいですが,
複雑な構成にしないと伝えられないことも多くあります.
そのような文章を読み解き意味を的確に理解しないと,
判断を誤ることもありますし,誤解されることもあります.
なによりも文を読んでその意味がわからないと,
人の気持ちはざらつきます.気持ちが悪いのです.
複雑な文を読解する力を持てば,
そのような文を読んでも意味がスッキリと理解できます.
その結果,あなたは状況を正しく判断し
周りから大きな評価を受けます.
文章を読むことも楽しくなるのはもちろんです.
だから,複雑な文章を読解する力を育成しましょう.
その方法を以下に述べます.
2.文の読解法
複雑な文章は,以下のプロセスで読解します.
これは私たちの脳が文章を理解する過程を
言葉と図で目の前に表すことでもあります.
脳の理解プロセスの可視化です.
・単文または文節
主語と述語がそれぞれ1個ずつの単文にします.
コツは主語をうまく導き出すことです.
これはとても大事です.
「何が(主語)」「どうした(述語)」の「何が」を把握しないと,
文の意味に到達できないからです.
単文の主語と述語の間に読点「,」を打つと,
文の構造(どれが主語でどれが述語か)を理解しやすいです.
または,主語と述語に該当する単語を持つ文節にしてもよいです.
文節はできれば文に変えると,より理解しやすくなりますが,
無理しなくてもよいです.
・接続詞または接続する言葉
接続詞または接続する言葉を書き出します.
接続詞により言葉がどのようにつながるかがわかるからです.
図解は次のように行うと単文・文節の意味が理解しやすくなります.
・単文・文節の意味を表す図,グラフや数式が書けるのなら,それを書きます
(意味がすぐにわかるなら,無理に行わなくてもよいです).
・単文・文節間の関係がわかるようにします.
具体的には,
(i)同じ意味の文か,
(ii)異なる意味の文か,
(iii)違うことに話が変わっていくのか,
(iv)対応関係があるのか,
です.
それらを図解に記します.
このとき,話の流れを把握するように努めます.
そうすることが論理展開を理解するということです.
ここで大事なのは,主語を明確にすることと,見やすく図解することです.
主語は上でも述べたように,
「何が」「どうした」の「何が」を明確にすることであり,
文(著者)が言いたいことを理解するキーだからです.
図解は脳内の理解プロセスを可視化することだからです.
見やすい図解は自分の脳内がよく見通されます.
慣れないときは,このプロセスをすべて紙に書くか,パソコンで行うとよいです.
慣れてくると①を書くだけで,文の意味を理解できるようになるでしょう.
さらに慣れれば①を頭の中で行うだけでよくなります.
いずれにしても何度も行うことが上達の近道です.
3.例
2つの例をあげて説明します.
1)例1
以下の例文を読解します.
例文
この文章を読んで最終行の「同じ色」は何色か,
ただちにわかるでしょうか.
答えは「黄色」ですが,わかりにくいですね.
この文章の「チモールブルーという指示薬・・・」は複雑な構成になっており,
何回か読まないと構成と意味を理解できません.
このような文は以下のプロセスで読解します.
読解法
2つに分解します
第一
チモールブルーという指示薬は強酸性では赤色でありpH9.6以上で青色を呈しその中間域では黄色である
この文をさらに2つに分けます.
・チモールブルーという指示薬が,ある.
・それは,強酸性では赤色であり,pH9.6以上で青色を呈し,
その中間域では黄色である.
チモールブルーは酸性から中性さらに塩基性で色が変わることがわかります.
第二
酸性で黄色となり中性で緑色であり塩基性では青色となる
ブロモチモールブルーと弱酸性では同じ色となる.
この文をさらに2つに分けます.
・酸性で黄色となり中性で緑色であり
塩基性では青色となるブロモチモールブルー
・ブロモチモールブルーと弱酸性では同じ色となる.
「ブロモチモールブルーと・・」の主語がわかりません.
文をよく見ると主語は文頭にあることがわかります.
なので,それを補ってもう一度書きます.
・チモールブルーは,ブロモチモールブルーと弱酸性では同じ色となる.
接続詞または接続する言葉
接続する言葉は「あり」です.
この言葉で前後(第一と第二)をつないでいます.
「あり」は自動詞(五段活用)「あり」の連用形です.
②単文・文節間の関係を検討しながら図解します.
・単文・文節の意味を表す図,グラフや数式を書きます
この例では不要です.
・単文・文節間の関係がわかるようにします.
次の③も加えて以下に図解します.
③さらに,文の意味を理解するのに他の知識が必要なら,それを書き加えます
酸性や塩基性がわからないとします.それらを調べると以下のとおりです.
強酸性はpH2以下,弱酸性はpH3~6,中性は(pH7),弱塩基性はpH8~10,強塩基性はpH11以上です.
文章内の「その中間域」とは強酸性とpH9.6の中間という意味だから,
弱酸性(pH3~6),中性(pH7)と弱塩基性(pH8~9.6)だとわかります.
そうなると,チモールブルーとブロモチモールブルーは,
両者とも弱酸性では黄色を呈することがわかります.
だから,「同じ色」は黄色です.
④文全体で何を言いたいのか,図解を見ながら考えます
文章から理解できることは以下のとおりです.
・チモールブルーとブロモチモールブルーという指示薬がある
・これらは酸性から塩基性で色が変化する
・指示薬により変化する色が異なる
・チモールブルーはブロモチモールブルーと弱酸性で同じ色(黄色)を呈する
以上より,チモールブルーとブロモチモールブルーとは,弱酸性で同じ色,つまり黄色を呈することがわかります.
2)例2
以下の例文を読解します.
例文
この文章で,「温度が一定のとき気体の圧力は・・・」以下は
容易に理解できるでしょうか.
絶対温度,圧力,体積および物質量が何度も出て,
それらが比例や反比例し,これらの関係は煩雑に思えます.
「絶対温度が一定のとき気体の圧力は・・・」以下の文は,
次のプロセスで読解できます.
読解法
第一
絶対温度が一定のとき,気体の圧力は,体積に反比例する.
第二
圧力が一定のとき,気体の体積は,絶対温度に比例する.
第三
絶対温度と圧力が一定のとき,気体の体積は,物質量に比例する.
第四
これらを総合すると,
気体の体積は,物質量と絶対温度に比例し圧力に反比例するといえる.
これらの文は,最初に条件が記され,次に主語と述語が続く構造です.
それぞれに読点を打つと理解しやすいです(上の文ではそのようにしてあります).
接続詞または接続する言葉
「反比例し」や「比例し」が前後を接続する言葉で,
話が続いていくことを示しています.
また,「これらを総合すると」は
これまでの話を総合したことが次に来ることを示しています.
②単文・文節間の関係を検討しながら図解します
第一から第三の文は,このままでは理解しにくいです.
文が示すことをグラフや数式にすると,理解しやすくなります.
特に理系の人だとスンナリと理解できるでしょう.
圧力をP,体積をV,絶対温度をT,物質量をnとし,
比例定数をaとして,数式とグラフを示します.
第一はX軸とY軸を入れ替えると他との関係を理解しやすいので,
それも合わせて示します.
これらを総合して考えると,第四も数式化できます.
変数が3つなので,第四の2次元のグラフ化はできません.
③さらに,文の意味を理解するのに他の知識が必要なら,それを書き加えます
例文の言葉を知らないなら,テキストや辞書で調べます.
このケースではそれ以外は特にありません.
④文全体で何を言いたいのか,図解を見ながら考えます
文章から以下のことがわかります.
・気体の状態は絶対温(T),圧力(P),体積(V)および物質量(n)で決められる
・絶対温度が一定のとき,気体の圧力は体積に反比例する
→体積と圧力の関係を逆にする
→V=a×1/P
・圧力が一定のとき,気体の体積は絶対温度に比例する
→V=aT
・絶対温度と圧力が一定のとき,気体の体積は物質量に比例する
→V=an
・これらを総合すると,気体の体積は物質量と絶対温度に比例し圧力に反比例する
→V=a×nT/P
4.まとめ
複雑な文は分解と図解により読解できます.それは以下のとおりです.
課題となっている文を,
単文・文節および接続詞または接続する言葉に分解します.
単文・文節間の関係を検討しながら図解します.
・このとき,単文・文節の意味を表す図,グラフや数式が書けるのなら,
それを書きます.
・単文・文節間の関係がわかるようにします.
さらに,文の意味を理解するのに他の知識が必要なら,それを書き加えます.
文全体で何を言いたいのか,図解を見ながら考えます.
このとき,話の流れを把握するように努めます.
そうすることが論理展開を理解するということです.
読解プロセスのポイントは,
主語を明確にすることと,見やすく図解することです.
これらがうまくできれば,文章を読解することは易しくなります.
以上
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