目次
1.はじめに
実験結果など研究成果を報告する研究レポートを,技術者は多く書きます.
一般的に研究レポートには多くの実験データや観察結果が示されます.
これらのデータを適切なグラフに描いて論理的に説明すると,
わかりやすいレポートになります.
データをうまくグラフ化するウデが重要です.
いろいろなデータがありますが,
たとえばある因子に対して変化する実験データや観測データは,
散布図で作成して近似線を引くとデータの真の変化がわかります.
ここを直すとわかりやすい研究レポートになる(研究レポートのためのテクニカルライティング)(1)―適切なグラフの作成方法と比較データの選択法―
性質の異なるデータを1つのグラフに示すと,データを比較検討することができ,
データが意味するものを理解しやすくなります.
このときグラフの作り方やデータの取り方を工夫すると,
データが示すことを理解しやすくなります.
さらに,データが意味するものを真に理解するには,
データの取り方と解析法も重要です.
レポートを書くとは,ここから始まっているのです.
レポートを書くとは,単に「書くテクニック」だけではなく,
データの意味を調べることから始まるのです.
なので,性質の異なるデータを1つのグラフに示す方法とデータ解析の例を述べます.
2.性質の異なるデータをグラフ化する
1)データ例―東京の暑い夏
例として東京の気温の経年変化を取り上げます.
最近日本は暑い夏が続くように感じます.
それを東京の気温データを使って考察する,ことを目的とします.
日本の気象データは気象庁のホームページ
(https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/index.php)
にありますので,
その中から最近の東京における夏の気温を調べる,とします.
ここで東京とは,東京管区気象台の場所を示し,
東京の気温とはこの場所で気象庁の定める方法で測定した気温です
(気象庁ホームページを参照してください).
調査期間を2000年から2018年とします.
調査対象を,
①1年間で最も高い気温(「年最高気温」と言いましょう)と,
②1年間で日最高気温が35℃を越えた日(猛暑日)の日数の変化とします.
ここで日最高気温とは1日における最も高い気温です.
2)年最高気温の経年変化を調べる
東京の年最高気温の経年変化(2000~2018年)を図1に示します.
図には気温データ値も記します.
数値もあわせて記すとわかりやすくなります.
2018年の最高気温は確かに高いですが,
2004年のそれは39.5℃であり,2018年は2000年以降では2番目の高さです.
実感と合わないです.
3)年最高気温と猛暑日の日数をあわせて提示する その1
そこで,猛暑日の日数もあわせてプロットし,図2に示します.
この図では2つのデータを折れ線グラフで示しました.
データの示す内容が違いますので,
その尺度を気温は左側,日数は右側に示します.
これでも一応わかります.
しかし,気温と日数は違う指標です.
それを同じ折れ線グラフで描くことは違和感があります.
4)年最高気温と猛暑日の日数をあわせて提示する その2
このような場合はどちらかを棒グラフにすると,
2つのデータの変化をより明瞭に認識できます.
図3に,猛暑日の日数を棒グラフにしたグラフを示します.
折れ線グラフは年最高気温を示し,棒グラフは猛暑日の日数を示します.
ここで気温は左側,日数は右側の単位で表されていますので,そ
れがわかるようにデータの近くに矢印でそれを示します.
また図にデータのタイトルを記すと理解しやすいです.
グラフを見ると年最高気温も日数もランダムに変化し一定の傾向が見当たらないようです.
最高気温と猛暑日の日数の変化の傾向は,この図から一目ではわからないようです.
しかし,もうすこしデータをよく見ると2018年は顕著な特徴を持つことを発見します.
2018年は年最高気温が2000年以降では2番目に高く,猛暑日の日数でも2番目に多い年です(図中赤矢印).
最高気温と猛暑日の日数が共に高い値を持つ年はありません.
強いてあげれば2013年ですが,最高気温は38.3℃で2018/年のそれよりも0.7℃も低いです.
したがって,2018年は暑い年であったことが理解できます.
このように,データが一定の傾向を示さないときは,
特徴的なデータがどこにどのように現れるかを調べると,データの意味がわかります.
5)年最高気温と猛暑日はどのように変化しているか
気温の変化は年ごとにバラつきます.
ある特定の期間を取れば気温が下がることもあります.
気温を決める因子がいくつかありそれらの関係も複雑だからです.
それを解消するには長期間のデータ変化を調べます.
図4に1876年から2018年までの長期間にわたる年最高気温と猛暑日の日数を散布図で描き,
一次近似線も示します.
最高気温も猛暑日日数もデータのバラツキはありますが,
一次関数で近似され傾きは正です.
つまり,最高気温も猛暑日日数も徐々に増える傾向にあることを示しています.
また,猛暑日の日数が年間で10日以上になった年は1995年に初めて出現し,
2010年以降2018年を含めて4回現れています.
ここ13年に限ると暑い日が多くなっているのはデータから明確です.
2018年はその傾向が顕著に現れた年と考えられます.
6)東京だけが暑いのか―他都市のデータとの比較
東京の夏は徐々に暑くなっていることがデータ解析からわかりました.
それははたして東京だけか,東京の特徴は何か,と疑問が起こります.
東京のデータを他都市のそれらと比較すると,それを考えることができます.
そこで,北と南の例として,それぞれ札幌と福岡を取り上げます.
これら3都市の2000年から2018年の年最高気温(折れ線グラフ)と日数の変化(棒グラフ)を,図5に示します.
年最高気温は札幌が最も低く,東京と福岡はほぼ同様です.
事実,この期間の札幌,東京と福岡の年最高気温の平均値は,それぞれ32.8℃,36.8℃と36.6℃ですから,上の認識を裏付けます.
一方,猛暑日の日数は顕著な差異が見られます.
札幌は2000年に2日だけ現れました(緑色棒グラフ)が,それ以降は観測されていません.
それに対して,福岡は2010年以降日数が10日を超える年が6回現れ,15日を超える年が4回あります.
最長は2013年の30回です.
東京は上述のように2010年から4回出現していますが,15日を超える年はありません.
これらのデータから,東京は札幌よりも年最高気温は高く猛暑日も多いので,暑いことがわかります.
また,福岡と比較すると,東京は福岡よりは最高気温は同じですが猛暑日は少なく,
福岡がより暑いことがわかります.
図5は棒グラフが少し見にくいかもしれません.
図6のように棒グラフを積み上げ型にする方法もあります.
こうすると福岡の猛暑日の日数が多いことが一目でわかります.
なお,このタイプの棒グラフは主に全体の値に意味があるときに使われます.
この棒グラフだと,両都市の暑い日数は2013年が最も多く,2010年がそれに続き,2018年は3番目です.
猛暑日の多い年は2018年だけではなく,2010年と2013年も暑い日が多かったことが一目でわかります.
このように,グラフを工夫するとデータの意味が容易に理解できます.
3.まとめ
研究レポートには多くの実験データや観察結果が示されます.
これらのデータを適切なグラフに描いて論理的に説明すると,わかりやすいレポートになります.
性質の異なるデータを1つのグラフに示すと,
データを比較検討することができ,データが意味するものを理解しやすいです.
さらに,データが意味するものを真に理解するには,データの取り方と解析法も重要です.
レポートを書くとは,ここから始まっているのです.
そのようなグラフをうまく作る方法とデータ解析の例を述べます.
性質の異なるデータとして,東京の夏の気温を取り上げ,
①1年間で最も高い気温(年最高気温)と,
②1年間で日最高気温が35℃を越えた日(猛暑日)の日数の変化を調べ,
最近の東京の気温について考えます.
①と②のデータは,それぞれ折れ線グラフと棒グラフで描くと,両者の意味を理解しやすくなります.
東京の気温変化の特徴は他都市のそれらと比較するとわかりやすくなります.
データ解析は,まず横軸(この例では年)に対して,
データ(この例では年最高気温と猛暑日の日数)がどのように変化するのかを検討します.
しかし,データが一定の傾向を示さないときもあります.
その場合は,特徴的なデータがどこにどのように現れるかを調べると,
データの意味がわかりやすくなります.
また,長期間にわたるデータを調べると,データ変化の傾向がわかり,
データの意味がわかりやすくなります.
このように,グラフの作り方やデータの取り方を工夫すると,データの意味が容易に理解できます.
『この1冊で!』
全ての研究者・技術者・理系学生のために!
この一冊で研究報告書のテクニカルライティングが学べます。
- ・研究報告書の構成,体裁と内容について
- ・結果と考察の構造,重要な4要素,結果と考察の論理展開について
- ・結果と考察の書き方について
- ・報告書の表題,緒言(背景と目的),結論、実験などについて
- ・文の推敲に係り受け解析を使う方法について