説明しました.
今回は実験報告書の“結果と考察”の例を示しましょう.
以下では,“結果と考察”に絞って話をします.
実験報告書全体の書き方は,
拙著(理系のための文章術入門)を参照してください.
目次
1.実験報告書の構成
実験報告書の構成を改めて以下に示します.
①何のために(目的)
②何を行って(実験)
③何がわかって
④それは何なのか・どうしたいのか
(意味・判断・要因など)
⑤エビデンスは何か
⑥結論は何か
2.実験報告書の題材
簡単な実験例として
2-プロパノールの沸点の測定を
取り上げます.
ここは“結果と考察”の書き方を述べたいので,
なじみやすい題材を使います.
いま実験者と報告を受ける人は,
沸点そのものをよく知らないし
この試薬の沸点も知らないので,
それらを調べたという設定にします.
科学技術者が未知のことについて
実験報告書をどのようにして書くのかを
説明したいので,ご了承願います.
沸点の測定法は,
日本薬局方No.54に示されていますので,
それに準じて実験を行ったとします.
装置の概略図を図1に示します.
この図は日本薬局方No.54
沸点測定法及び試験法の図
(http://jpdb.nihs.go.jp/jp14/pdf/0082-1.pdf)です.
実験方法の詳細は薬局方に記されていますので割愛しますが,
概略は以下のとおりです.
蒸溜フラスコ(太い矢印)に2-プロパノールを入れて,
ウォーターバスで加熱します.
2-プロパノールは気化し,留出口(細い矢印)から
冷却管を通って液化し,メスシリンダー(○印)で採取されます.
沸点測定実験は,蒸溜フラスコの加熱時間と
留出口の温度を測定したとします.
なお,以下で示すデータは架空のものです.
この実験結果について,報告します.
1)報告書を書く前に
実験結果が出ているとします.
でも,それだけではまだ報告書を書けません.
やることがあります.
① 実験目的(課題)の確認
課題を確認します.
ここでは,「2-プロパノールの沸点を実験で調べる」とします.
② データの「見える化」
加熱時間に対する温度変化を,表にまとめて示します.
次に,それをグラフ化します.
横軸に時間,縦軸に液温としてグラフ化して,
図に示します.表と図2を作りました.
時間/分 | 0.0 | 2.5 | 5.0 | 7.5 | 10.0 |
温度/℃ | 18 | 22 | 29 | 37 | 47 |
時間/分 | 12.5 | 15.0 | 17.5 | 20.0 | 22.5 |
温度/℃ | 54 | 61 | 69 | 75 | 81 |
時間/分 | 25.0 | 27.5 | 30.0 | ||
温度/℃ | 82 | 82 | 82 |
③ 既知の知識の確認
沸点について,3つの文献を調べました.
(千原秀昭,中村亘男訳,東京化学同人,1979年)p.194に
沸点の説明があります.
以下に転記します.なお,以下の記述で,
一般的には,大気中で実験するから,
外圧は1気圧(atm)です.
沸騰は,液体から気泡が発生する現象です.
(化学,竹内敬人他著,東京書籍,2013年,p.15)に,
沸騰,つまり気泡が水中から発生する理由を,
次のとおり述べています.
(日本化学会編,丸善,I-386,1993年)に,
大気圧が1.013×105Pa(1気圧)のとき,
2-プロパノールの沸点は82.4℃と記されています.
これで準備が整いました.
2)“結果と考察”を書く
“結果と考察”を以下の手順で書きます.
① データが示していることを書く
・実験の目的と内容の概要を書く
2-プロパノールの沸点を調べるために,
加熱時間と留出口の温度を測定した.
・データはどこにあるか
それを表にまとめ,図1に示す.
・データは何を示しているか
加熱時間に対して,
留出口の温度は上昇し25分以降は82℃で一定になった.
加熱後約23分後から沸騰が始まり,
その後冷却管を通って2-プロパノールが
メスシリンダーに採取された.
② わかったことを書く
この結果より,
加熱後25分後より留出口の温度は
82℃で一定になり,
このとき2-プロパノールは沸騰することがわかった.
③ エビデンスを示して議論する
液体を加熱すると蒸気圧が増加する.
蒸気圧が外圧に等しくなったとき,
液体は沸騰する.
上記結果より,2-プロパノールの沸点は,
82℃であると考えられる.
2-プロパノールの沸点は82.4℃と報告されている.
これは上記考察を支持する.
④ 結論を書く
したがって,2-プロパノールの沸点は82℃であることがわかった.
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文献
1) アトキンス物理化学(上)第4版
(千原秀昭,中村亘男訳,東京化学同人,1979年) p.194.
2) 化学便覧,日本化学会編,丸善,I-386,1993年.
データの提示から結論に至るところで,
エビデンスに基づく議論を行うのです.
ここが重要なのです.
次回は,同じ題材を使って,
初心者の陥りやすい間違えた書き方を紹介します.
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- ・結果と考察の書き方について
- ・報告書の表題,緒言(背景と目的),結論、実験などについて
- ・文の推敲に係り受け解析を使う方法について