目次
科学技術者は多くの科学技術文を書く
科学技術者は意外に多くの科学技術文を書きます.
職場によって多少は違うと思いますが,
研究者や技術者だと,
定期的に研究成果を上司に報告するために,
週報や月報を書きます.
実験や調査などのイベントごとに書く
実験報告書や調査報告書,
会議終了後に決定事項をまとめる
会議報告書もあります.
研究が一段落したときに書く研究報告書もあります.
また,大学や大学院だと,卒業研究論文や
修士・博士学位論文を書きます.
企業の技術者が文書作成に
どの程度時間を使っているのか調べてみました.
残念ながら最近では公表データがありません.
多分,企業では社員の調査はしているのですが,
社内にデータを留めているのだと思います.
古い資料を見つけましたので,
それを示します.
そのデータは,
筆者の企業や大学での経験から考えても,
いまでも妥当と思います.
ここで示されているデータは,
1981年と1983年に
米国企業における科学技術者の文書作成に
費やしている時間と
その内容の調査および,
同様の日本の企業における調査結果です.
それによると,
日米とも企業の科学技術者
(専門職・一般職)は,
仕事時間の約1/3を文書作成に費やしています.
その内訳は,研究報告に関する書類
(研究報告書,中間報告書など)作成に
約半分の時間を使い,残りの時間は会議などの
資料作成や会議報告書などに
費やされています.
いまも同じではないでしょうか.
次に,
文書作成時間の中身が調べられていますが,
それは日米で異なっています.
それを表に示します.
表 文書作成時間の中身(平均値 %)
準備 | 表現 | 執筆 | 推敲 | |
---|---|---|---|---|
日本 | 34.6 | 17.3 | 33.8 | 14.3 |
米国 | 21 | 15 | 42 | 22 |
表によると,日本の科学技術者は,
準備と執筆に時間を使いますが,
推敲には時間をかけていません.
それに対して,
米国では準備にはあまり時間をかけないで,
執筆と推敲に多くの時間を使っています.
どのような言い回しや言い方にしようか
(表現)と
考える時間は,日米とも同様です.
つまり,日本の科学技術者は,
・何をどのように書こうかといろいろと考えて
(準備),
・時間をかけて文書を書いてまた書き直して
(執筆),
・言い回しにはある程度時間をかけて
(表現),
・書き終えたら見直すことをあまり行わず
(推敲),
提出するようです.
これは筆者の指導した学生の行動とも合致しています.
それに対して,米国では,
日本の科学技術者に比べて,
準備と表現にかける時間よりも執筆と推敲に
時間をかけています.
これだけでは何とも言えないのですが,
米国の理工系大学では文章作成の授業があり,
学生はこれを履修して卒業しますので,
文章作成の基本技術を身に付けていると推定されます.
だから,
文書作成の準備段階は定型的になっていて,
あまり時間をかけないでも出来ているのではないかと推定されます.
また,推敲に時間をかけるのはより説得力のある文章にしようとしているのでしょう.
上記結果から,
論文中でこの著者(氏家氏)は,
科学技術者に対する科学技術文書の作成教育が
重要であることを力説しています.
また,それを勤務先の企業で実践していると報告しています.
文章作成は重要なスキル
さて,上の調査はもう約40年も前ですが,
現状は大きな変化がないように,筆者は感じています.
企業の若手技術者や大学・大学院の学生で,
文章がうまく書けないと自覚している人も多いのはないでしょうか.
次のような経験をした人も多いのではないでしょうか.
どのように書いたらいいのかわからない,
とりあえず先輩と同じように書いたのに,
上司から「わからない」と言われた,
自分が行ったことを書いて
自分の意見を付けたら,
上司から「感想文のようだ」と言われた,
などなど.
読み手である上司の立場から考えると,
何を言いたいのかわからない文章を
読めと言われても,困ってしまいます.
ほとんどの場合,書き手の言いたいことを
一生懸命に考えてくれる上司はいません.
それに上司は多忙です.
わかりにくい文章を読もうとする前に,
それを突き返して,「書き直し!!」と言うでしょう.
書いた当人は困りますね.
仕事は進みませんし,
何より書き手の評価が下がります.
だから,科学技術者にとって,
わかりやすい文章を書くことは大事なのです.
わかりやすい科学技術文を書くスキルを身に付けることは,
科学技術者として大成するために重要なのです.
文章作成は難しい
しかし,理科系の人にとって,
文章を書くことが大得意という人は少ないでしょう.
上で述べたように,大概の人は
「書くことは苦手だなあ」とか
「うまく書けないなあ」と
悩んでいるでしょう.
特に,若い科学技術者に
そういう人が多いのではないでしょうか.
スマホで短文の(ときにはスタンプだけで)
やりとりをしている人たちにとって,
科学技術文を書くことには大きな壁があるのでしょう.
文章を書くことは難しいのです.
わかりやすい科学技術文を書く方法を体系的に身につけよう
では,どうすればよいのでしょうか.
上司から「わかりやすく書きなさい,とか
「キチンと書きなさい」と言われても,途方に暮れます.
わかりやすい文章が書けないのは,
書く方法が身に付いていないからです.
それに加えて,「うまく書こう」とするから
不必要に肩に力が入ってしまい,
言葉が出てこなくなるからです.
科学技術文は,なにも村上春樹のような
名文を要求しているのではありません.
詳しくはこれから順番に述べていきますが,
科学技術文を書く方法に従って書いて行けば,
誰でも「うまく」書けるものなのです.
だから,書く方法を体系的に身に付ければよいのです.
科学技術文とはどのようなもので,
その書き方をマスターするにはどうすればよいのでしょうか?
次回以降に,それについて順番に述べていきます.