テクニカルライティング教室

テクニカルライティングの講習・テンプレート作成

係り受け解析して科学技術文をブラッシュアップする【テクニカルライティング】

目次

1.はじめに

科学技術文は「論理的でわかりやすく」が求められます.
書き手はそれを承知していますから,そのように書く努力をしています.

でも,それはたいへん難しいです.
これでよいと思った文章でも,読み手に伝わらないときもあります.

たとえば,複数の解釈が可能な文になったり,
どの言葉がどこに係っているのかわからない文などです.

このような文章は推敲段階で見つけて改訂すべきですが,
注意して探してもなかなか見つけられません.
自分が書いた文章は書いたと思う内容で読み,
違う文字も書いたはずの文字で読んでしまうからです.

係り受け解析はそれを解決してくれるツールです.
草稿を係り受け解析することにより,文章をブラッシュアップして,
わかりやすい科学技術文に仕上げることができます.

そこで,本稿は係り受けについて述べます.

2.係り受けとは

係り受けとは,文を文節に分けてそれぞれの文節の関係を調べることです.

文節とは,「文を読む際,自然な発言によって区切られた最小の単位」
(広辞苑 第7版)
と一般的に説明されます.

ここでは,文の意味を考えることのできる語句とします.
具体的には,名詞,形容詞および動詞+助詞・助動詞です.

述語をここでは1つの文節とします.例を示して説明します.

①主語,述語および述語に係る文節(1)

文例1

この文例の文節は「湯川秀樹は」,「ノーベル賞を」,「受賞した」です.

主語は「湯川秀樹は」で,述語は「受賞した」です.

主語の行ったことを述語が示していますので,主語と述語は対応しています.

「ノーベル賞を」は述語「受賞した」に係っています.

また,「受賞した」は「ノーベル賞を」を受けています.

②修飾語と被修飾語

文例2

文例2の「ブラックホールの」は「存在を」を修飾しています.

「存在を」は「予測した」に係っています.

「ブラックホールの」は修飾語で「存在を」は被修飾語です.

日本語文では修飾語は被修飾語の前に置くのが一般的です.
この位置関係が逆になることは,科学技術文(理系文)ではあり得ません.
科学技術文を書くときに注意すべきところです.

文節を入れ替えて意味がわからなくなれば,
修飾語と被修飾語の関係になっていることを示します.

この文例の「ブラックホールの」と「存在を」を入れ替えて,
「存在をブラックホールの」とすると意味がわかりません.

このことは修飾-被修飾の関係を調べるときの指標となります.

文節を入れ替えると意味が通らなくなるなら,
それは修飾語―被修飾語の関係といえます.

入れ替えても意味が通れば修飾-被修飾の関係ではないと言えます.

なお,この文例では主語は「アインシュタインは」で述語は「予測した」です.

この文例でも主語の行ったことを述語が記していますから,主語と述語は対応しています.

③人称代名詞および述語に係る文節(2)

文例3

文例3では主語「私は」は省略されています.
日本語では人称代名詞は省略されることが多いです.

述語は「測定した」で主語と対応しています.

「試作品Aの」は「硬度を」を修飾しています.
「硬度を」は「測定した」に係っており,
「測定器XXで」も「測定した」に係っています.

この文例では述語「測定した」は3つの文節を受けています.

同じ言葉に係る複数の文節は入れ替えても意味が通ります.

この文例の「試作品Aの硬度を」と「測定器XXで」を,
文例4のように入れ替えても意味は同じです.

ただし,ニュアンスが変わるかもしれません.

文例4

④述語に係る文節(3)

文例5

文例5の述語「測定した」には4つの文節が係っています.

「研究者は」,「硬度を」,「測定器XXで」と「慎重に」です.

意味が理解できる文では,ある文節に係る文節は多くても4つだという報告があります
(“ピダハン”,ダニエル・L・エヴェレット著,屋代通子訳,みすず書房,p.357,2012年)

この指摘は重要です.
述語に係る文節を4つ以下にすると意味の通る文を作成できます.

この文例は意味がわかります.
5つの文節が係る文は,ぎこちない印象を与え意味の取れにくい文になります.

文章を書くとき,述語に係る文節を多くしないとスッキリと意味の通る文を書けます.

⑤前から後ろへ順番に係る

文例6

文例6のように,前の文節が後ろの文節に順番に係る文は理解しやすいです.

この文では前の文節がすぐ後ろの文節の修飾語になっており,
順番に後ろの文節を修飾していきます.

文末まで読むと,「予測した」のは「ブラックホールの存在」であり,
それは「すべての物質を飲み込む」ものであることが容易にわかります.

この書き方はわかりやすい科学技術文を書くコツで,
日本語文の特徴を活かした方法です.

日本語文は文末まで読むと文の全体像が見えてきます.
それが日本語の特徴です.

なので,文節が文頭から順番に係る書き方をすると,
次第に文の意味が明確になり,わかりやすい日本語文になります.

このように,日本語文では一般的に前の文節が後ろの文節に係るように書きます.

この位置関係が逆になることは,特別の場合(倒置法)を除いてはありません.

倒置法は通常の語順を逆にする書き方です.

たとえば,「行こうよ,はやく」や「まぶしい,太陽が」です.

倒置法は科学技術文(理系文)では用いません.

3.まとめ

以上より,意味のわかる日本語文における係り受けの特徴は,以下のとおりです.

文内の文節は,他の文節に必ず係ります.
文内でどこにも係らない文節はありません.
ただし,接続詞と感嘆詞は除きます.
文には主語と述語があり,主語と述語は対応しています.
ただし,主語は省くことができますし,人称代名詞は省かれることが多いです.
文内では文頭の文節から文末のそれへと係ります.
その逆は特別の場合(倒置法)を除いてはありません.
そのような書き方は科学技術文(理系文)では用いません.
述語には複数の文節が係ります.
ある文節に係る文節は多くても4つだとの報告があります.
述語に係る文節を4つ以下にすると意味の通る文を作成できます.

これらを図示すると,次のようになります.

草稿を書いたら,係り受け解析を行い,上記特徴を考慮して文章を見直します.

つまり,

(i)主語と述語は対応しているのか,

(ii)どこにも係っていない文節はあるか,

(iii)修飾語はどの被修飾語に係っているのか,

です.

これらに着目して推敲するとわかりやすい文章を書くことができます.


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①重要な部分をカラーにして強調したり,ポイントを枠で囲むなどして,ビジュアルな誌面とし,内容をつかみやすいようにしています.

②日本語の構成と特徴を述べ,次いで理系文の構成と特徴を,日本語文のそれと比較しながら述べ,両者の違いがわかるように配慮してあります.

③科学技術文の構成と特徴を「理系文法」として体系化したので,科学技術文の書き方を体系的に困難なく習得することができます.

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