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データとエビデンスのテクニカルライティング(2) ―データとエビデンスを使って論理的・科学的に書く方法(2)―

目次

1.はじめに

1)データとエビデンスは大事

科学技術に限らず,私たちは何かを主張します.主張というと大げさに聞こえるかもしれませんが,
自分の意見や考えと言い換えると,毎日どこかで何かを主張しています.

どんなに立派な主張でも,単にそれを述べるだけでは読み手は同意も共感もしにくいです.

主張を裏付ける事実(データ)やその根拠・証拠(エビデンス)が必要で,
それらを使って,あなたの主張を論理的に(科学技術ではさらに科学的に)述べます.

そうすると,読み手はあなたの主張を理解し,納得できます.データとエビデンスが必要なのです.

2)データとエビデンスを使う科学技術文

研究報告書などの科学技術文は,データとエビデンスに基づいて論理的・科学的に記述されています.
それらを使って書くための一定の体裁を,科学技術文は持っています.

それに従い順序立てて書けば,論理的で科学的な文章を容易に書くことができます.
その書き方は,
「データとエビデンスのテクニカルライティング(1)
―データとエビデンスを使って論理的・科学的に書く方法―」

に示しました.

そこに文例を示しましたが,データとエビデンスを使う書き方はいくつかあります.

その中でも,エビデンスに基づく考察(議論)は,
読み手と書き手の持っている知識によって書き方を変えると,
読み手に理解しやすい文章になります.

具体的には以下のとおりです.


読み手も書き手も共通の知識を持っている場合は,
両者が知っていることを割愛しても読み手は理解し納得してくれます.


書き手はわかってはいるが読み手が知らないことがあれば,
それを述べないと読み手は理解できませんし納得できません.


書き手も読み手も知らないことは,新たな知識として書き理解を求めます.


報告書が書き手の属する機関のテキストや必読レポートとして使用されることもあるでしょう.
そのようなときは,報告書に関する基本的な事項から説明すべきです.

本稿は,その中から,読み手と書き手が同じ知識を持っている場合と,
両者の知識が異なる場合の書き方を述べます.
事例として地球温暖化の要因を取り上げます.

2.データとエビデンスを使った科学技術文の体裁

データとエビデンスを使った科学技術文の体裁を再掲します.

①文章の目的と概要を簡潔に述べる
②データはどこにあるのか,を記す
③データが示していることと,データからわかったことを述べる
④エビデンスを示して考察(議論)する
⑤結論を書く

この詳細な説明は「データとエビデンスのテクニカルライティング(1)」をご覧ください.

3.事例

1)地球温暖化の要因を考察する
最近,梅雨時の局地的な集中豪雨,夏の極端な高温や大型台風の来襲など異常気象現象が頻発しています.それは地球温暖化によると考えられています.地球温暖化は,地球規模での気温や海水面温度の上昇であり,近年それが顕著になっています.
そこで,地球温暖化の要因について,それらに関するデータとエビデンスに基づいて考察します.

2)データ
地球が温暖化していることをデータで確認します.それを温暖化の要因の考察にも使います.世界の平均気温が上昇していることは,世界の年平均気温偏差の変化からわかります.気象庁のホームページ(HP)にそれが掲載されていました.1)
それを引用して4項の文例中に図1として示します.

文献
1)気象庁HP URL:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/aug_wld.html

3)エビデンス
①地球全体のエネルギー収支―大気が生物が生存できる温度になる理由
地球の大気が生物が生存できる温度になっている理由を示します.それを述べると地球温暖化の要因を考えることができます.
地球のエネルギー収支を,模式図で示し,4項の文例に図2として示します.模式図は,「IPCC report communicator ガイドブック~基礎知識編~WG1基礎知識編(環境省)」2) と「環境年表2019―2020」(国立天文台編,丸善出版,2019年)」3) に基づいて作成しました.IPCCは国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)です.
地球に供給されるエネルギーは,太陽からの光や熱線の放射エネルギーです.太陽光の約1/2は地表面に吸収され,地表面を暖めます.地表面からは熱線が大気へ放射され,そのほとんどは温室効果ガスに吸収されます.吸収された熱エネルギーのうち約1/2は地表面へ放射されます.この放射が近年問題となっている温暖化の要因と考えられています.

文献
2)IPCC report communicator ガイドブック~基礎知識編~WG1基礎知識編(環境省)
URL:https://ondankataisaku.env.go.jp/communicator/files/WG1_guidebook_151016.pdf
3)国立天文台編,“環境年表2019―2020”,丸善出版(2019年)p.31.

②二酸化炭素量の経年変化
温室効果ガスは水蒸気,二酸化炭素やメタンなどです.水蒸気は自然由来で太古から大気に存在しているので,ここで考察する温暖化に関係しません.近年の温暖化に関与しているのは,二酸化炭素やメタンなどですが,最も存在量の多い二酸化炭素が最も大きな要因と考えられています.
だから,本稿ではその経年変化を考察します.二酸化炭素の経年変化を気象庁HPから得ました.4)
それを4項の文例中に図3として示します.

文献
4)気象庁HP http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p06.html

③二酸化炭素などの温室効果ガスの影響をシミュレーションする
二酸化炭素の増量は,産業革命以降の産業活動や日常活動における化石燃料の大量使用によると考えられています.その温暖化に対する影響の程度は,気候モデルを用いたシミュレーション結果と観測結果を対応させると理解できます.2)
自然起源(太陽活動+火山活動)の影響のみを考慮したシミュレーション,自然起源の影響と人間活動の影響(人為起源温室効果ガス等)を加えたシミュレーション,および気温の観測結果を,4項の文例中に図4として示します.
シミュレーション結果と観測結果を考察すると,人間活動の影響を加えたシミュレーションが観測結果と一致していることがわかります.このことは,温暖化は人間活動の影響による可能性がきわめて高いことを示します.

④IPCC報告
地球温暖化に関して,国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書が第一級の資料です.現在,第5次報告書(2013年)(AR5)が公開されています.本稿は,政策決定者向け要約5)とその解説2)を参照し,解説2)をエビデンスとして用いました.

文献
5)IPCC第5次報告書(2013)(AR5) 政策決定者向け要約 
URL:https://www.ipcc.ch/site/assets/uploads/2018/02/WG1AR5_SPM_FINAL.pdf

4.文章の書き方 その1

上記データとエビデンスを使って,二酸化炭素が地球温暖化の要因であることを考察する文章を書きます.その書き方は読み手と書き手の持っている知識により,以下の2つのケースが考えられます.

ケース1
二酸化炭素は温室効果ガスであることを,読み手も書き手も理解しているケース

ケース2
二酸化炭素は温室効果ガスであることを,読み手が理解していないが書き手はわかっているケース

ケース1の場合は,二酸化炭素量が平均気温偏差と同様の変化をしていることを明らかにし,他のエビデンスを提示して考察すれば,読み手は二酸化炭素が地球温暖化の要因であることを理解できます.
しかし,ケース2の場合は,二酸化炭素が大気温度を上昇させることを説明しなければなりません.このように考察する内容の一部を読み手が理解していない場合は,それを説明しなければなりません.そうしないと,書き手の結論を読み手は納得できません.読み手の持っている知識を書き手は予測して書かねばならないのです.
まず,ケース1の書き方を述べます.ケース2は項を改めて示します.

1)文章を書く

前項の科学技術文の体裁に従って,書いていきます.

①文章の目的と内容の概要を簡潔に述べる

文例
最近,夏の極端な高温など異常気象現象が頻発している.それは地球温暖化によると考えられている.そこで,なぜ地球は温暖化していると考えられるのか,その要因をデータとエビデンスに基づいて考察する.

解説
文頭にこの文章の目的と文章の概要を記します.文章全体が目の前に広がり,読み手は素直に文章に入っていけます.
文章の目的は「なぜ地球は温暖化していると考えられるのか」です.この文章は「その要因をデータとエビデンスに基づいて考察する」のです.

②データはどこにあるのか,を記す

文例
世界の平均気温が上昇していることは,世界の年平均気温偏差の変化で明らかである.図1に世界の平均気温の1981〜2010年の30年平均値からの偏差を示す1).黒線は各年の平均気温の基準値からの偏差,青線は偏差の5年移動平均,赤線は長期的な変化傾向を示す.

文献
1)気象庁HP URL:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/aug_wld.html

解説
この文例では地球温暖化は事実として認識されています.それを数値データで確認するために世界の平均気温の偏差(1890年~2018年)を示します.この資料は気象庁HPから得ましたので,そのことを引用番号を付けて示し,情報源を文献に記しています.

③データが示していることと,データからわかったことを述べる

文例
1890年~2018年までの年平均気温は,短期的にはバラツキがあるが,長期的には上昇しており,ここ100年間で約0.7℃上昇している.

解説
データが示していることを述べます.1890年からの世界の平均気温偏差は年により前年より高かったり低かったりしますが,長期的変化傾向(図中赤線)は上昇しており,100年間で0.7℃上昇していることがわかります.一次近似線を引くと上昇傾向にあることがわかります.なので,データからわかったこと「(世界の平均気温偏差は)長期的には上昇しており,ここ100年間で約0.7℃上昇している」が明記されています.

④エビデンスを示して考察(議論)する

文例
ところで,大気が生物が生存できる温度を保つことができるのは温室効果ガスによる.地球全体のエネルギー収支を図2に示す2,3).地球に供給されるエネルギーは太陽からの光や熱線の放射エネルギーである.太陽光の一部は大気や地表面で反射されたり(C-1)大気内の温室効果ガスに吸収される(B-2)が,約1/2は地表面に吸収され(A-1),地表面を暖める.地表面からは熱線が大気へ放射され(B-1),そのほとんどは温室効果ガスに吸収されるが,一部は温室効果ガスに吸収されないで(「大気の窓」により)宇宙へ放出される(C-3).また,地表面からは顕熱(暖められた建物や地表面からの熱放射)(B-2)と潜熱(水蒸気による熱放射)(B-3)による放射もある.温室効果ガスに吸収された熱エネルギーは,熱線として約1/2は地表面へ放射され(A-2),他は外(宇宙)へ放射される(C-2).地表面へ放射された熱線(熱エネルギー)(A-2)が温室効果を起こす.温室効果の程度は温室効果ガスの種類と量によると考えられる.温室効果により大気は私たちが生存できる温度に保たれる.もし,温室効果ガスがなければ,大気は-19℃になると考えられている.

文献
2)IPCC report communicator ガイドブック~基礎知識編~WG1基礎知識編(環境省)
URL:https://ondankataisaku.env.go.jp/communicator/files/WG1_guidebook_151016.pdf
3)国立天文台編,“環境年表2019―2020”,丸善出版(2019年)p.31.

解説
温暖化を考察するには,そもそも大気が私たちが生存できる温度を保っている理由,つまり温室効果を理解しなければなりません.地球温暖化は過剰な温室効果によると考えられるからです.地球に供給されるエネルギーは太陽由来の放射エネルギーです.それが温室効果をもたらすまでの経過を,模式図を示して説明しています.この模式図は文献2)と3)に基づいて作成しましたので,それらを引用します.

文例
温室効果が強くなれば,つまり温室効果ガスが増加すれば,地球は温暖化すると考えられる.温室効果ガスは水蒸気,二酸化炭素やメタンなどである.水蒸気は自然由来で太古から大気に存在しているので,ここで考察する温暖化に関係しない.他の温室効果ガスで大量に存在しているのは二酸化炭素である.このガス量の変化は注目すべきである
西暦0年からの大気中の二酸化炭素の経年変化を,図3に示す4)

大気中の二酸化炭素は西暦0年から19世紀までは約280ppmでほぼ一定であった.しかし,19世紀末からそれは上昇し,特に20世紀後半に大きく上昇し,2015年では約400ppmになった.
世界の二酸化炭素量の変化(図3)と平均気温偏差の変化(図1)は,よく対応している.大気中に二酸化炭素量が増大することにより,それから地表面へ放射される熱線が増大し,地球温暖化が起こったと考えることは合理的である.

文献
4)気象庁HP http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p06.html

解説
温室効果の原理から考察すれば,温室効果ガスが増えれば温室効果が増大し,温暖化ガスが進むと考えられます.温室効果ガスの中でも存在量が多いのは二酸化炭素ですから,その大気中の濃度変化を調べます.地球の大気全体の二酸化炭素量は西暦0年から調べられています.図3に示した濃度変化は産業革命以降に二酸化炭素量が増大したことを如実に示しています.
1890年以降の二酸化炭素量の変化と平均気温偏差の変化はよく対応しています.大気中に二酸化炭素量が増大することにより,大気温度が上昇し地球温暖化が起こったと考えることは合理的です.

文例
大気中の二酸化炭素の増量は,産業革命以降の産業活動や日常活動における化石燃料の大量使用によると考えられる.その温暖化に対する影響の程度は,気候モデルを用いたシミュレーションと観測結果を対応させると理解できる2)(図4).図中,黒線は観測結果,青帯は自然起源(太陽活動+火山活動)の影響のみを考慮した複数のシミュレーション結果,および赤帯は自然起源の影響と人間活動の影響(人為起源温室効果ガス等)を加えた場合の複数のシミュレーション結果を示す.いずれも陸上のみで世界平均した結果である.

図で示される複数のシミュレーション結果を考察すると,自然起源の影響のみで気温の上昇が起こったとは考えにくい.それに対して人間活動の影響を加えると20世紀,特にその後半で気温が上昇していることがわかる.シミュレーション結果は観測結果とよく合っている.このことは,温暖化は人間活動の影響による可能性がきわめて高いことを示す.つまり,産業活動や日常生活でより多量の二酸化炭素などの温室効果ガスが排出され,それが温暖化を進めたと考えられる.

解説
二酸化炭素の経年変化を示した後で,自然起源と人間起源による気温変化のシミュレーション結果を示しています.それと観測結果と比較することにより,人間起源の温室効果ガス(二酸化炭素など)が温暖化の要因であることを導き出しています.
引用する資料は引用元を明記するのは当然ですが,図4のように注釈があるときはそれも記します.このようにしないと引用される資料が読み手にはよく理解できないからです.
エビデンスはできれば複数示すと,書き手の考察の信頼性が増しますし,主張が補強されます.

⑤結論を書く

文例
以上の結果より,地球温暖化の主な要因は二酸化炭素量の増大によると考えられる.その増大は人間の産業活動や日常生活によると考えられる.

解説
得られた結論が「地球温暖化の主な要因は二酸化炭素量の増大によると考えられる」と明確に書かれています.さらに,「その増大は人間の産業活動や日常生活によると考えられる」と温室効果ガスが増えた要因も結論されています.これらがデータとエビデンスに基づいた考察で得られた結論です.
結論を「地球温暖化の主な要因は二酸化炭素量の増大によることがわかった」,「その増大は人間の産業活動や日常生活によることもわかった」と書くこともできます.このように書くと,書き手は結論に確信を持っていることを表しており,結論に対する書き手の判断が強いことを示します.

2)文例の全文

上の項目別文例をまとめて全文を以下に示します.表題も示します.文献は文末にまとめて示します.

地球温暖化の主要因は二酸化炭素量の増大

 最近,夏の極端な高温など異常気象現象が頻発している.それは地球温暖化によると考えられている.そこで,なぜ地球は温暖化していると考えられるのか,その要因をデータとエビデンスに基づいて考察する.
 世界の平均気温が上昇していることは,世界の年平均気温偏差の変化で明らかである.図1に世界の平均気温の1981〜2010年の30年平均値からの偏差を示す1).黒線は各年の平均気温の基準値からの偏差,青線は偏差の5年移動平均,赤線は長期的な変化傾向を示す.1890年~2018年までの年平均気温は,短期的にはバラツキがあるが,長期的には上昇している.ここ100年間で約0.7℃上昇している.

 ところで,大気が生物が生存できる温度を保つことができるのは温室効果ガスによる.地球全体のエネルギー収支を図2に示す2, 3).地球に供給されるエネルギーは太陽からの光や熱線の放射エネルギーである.太陽光の一部は大気や地表面で反射されたり(C-1)大気内の温室効果ガスに吸収される(B-2)が,約1/2は地表面に吸収され(A-1),地表面を暖める.地表面からは熱線が大気へ放射され(B-1),そのほとんどは温室効果ガスに吸収されるが,一部は温室効果ガスに吸収されないで(「大気の窓」により)宇宙へ放出される(C-3).また,地表面からは顕熱(暖められた建物や地表面からの熱放射)(B-2)と潜熱(水蒸気による熱放射)(B-3)による放射もある.温室効果ガスに吸収された熱エネルギーは,熱線として約1/2は地表面へ放射され(A-2),他は外(宇宙)へ放射される(C-2).地表面へ放射された熱線(熱エネルギー)(A-2)が温室効果を起こす.温室効果の程度は温室効果ガスの種類と量によると考えられる.温室効果により大気は私たちが生存できる温度に保たれる.もし,温室効果ガスがなければ,大気は-19℃になると考えられている.

 温室効果が強くなれば,つまり温室効果ガスが増加すれば,地球は温暖化すると考えられる.温室効果ガスは水蒸気,二酸化炭素やメタンなどである.水蒸気は自然由来で太古から大気に存在しているので,ここで考察する温暖化に関係しない.他の温室効果ガスで大量に存在しているのは二酸化炭素である.このガス量の変化は注目すべきである
 西暦0年からの大気中の二酸化炭素の経年変化を,図3に示す.4)

 大気中の二酸化炭素は西暦0年から19世紀までは約280ppmでほぼ一定であった.しかし,19世紀末からそれは上昇し,特に20世紀後半に大きく上昇し,2015年では約400ppmになった.
 世界の二酸化炭素量の変化(図3)と平均気温偏差の変化(図1)は,よく対応している.大気中に二酸化炭素量が増大することにより,それから地表面へ放射される熱線が増大し,地球温暖化が起こったと考えることは合理的である.
 大気中の二酸化炭素の増量は,産業革命以降の産業活動や日常活動における化石燃料の大量使用によると考えられる.その温暖化に対する影響の程度は,気候モデルを用いたシミュレーションと観測結果を対応させると理解できる2)(図4).図中,黒線は観測結果,青帯は自然起源(太陽活動+火山活動)の影響のみを考慮した複数のシミュレーション結果,および赤帯は自然起源の影響と人間活動の影響(人為起源温室効果ガス等)を加えた場合の複数のシミュレーション結果を示す.いずれも陸上のみで世界平均した結果である.

 図で示される複数のシミュレーション結果を考察すると,自然起源の影響のみで気温の上昇が起こったとは考えにくい.それに対して人間活動の影響を加えると20世紀,特にその後半で気温が上昇していることがわかる.シミュレーション結果は観測結果とよく合っている.このことは,温暖化は人間活動の影響による可能性がきわめて高いことを示す.つまり,産業活動や日常生活でより多量の二酸化炭素などの温室効果ガスが排出され,それが温暖化を進めたと考えられる.
 以上の結果より,地球温暖化の主な要因は二酸化炭素量の増大によると考えられる.その増大は人間の産業活動や日常生活によると考えられる.

文献
1)気象庁HP URL:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/aug_wld.html
2)IPCC report communicator ガイドブック~基礎知識編~WG1基礎知識編(環境省)
URL:https://ondankataisaku.env.go.jp/communicator/files/WG1_guidebook_151016.pdf
3)国立天文台編,“環境年表2019―2020”,丸善出版(2019年)p. 31.
4)気象庁HP http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p06.html

5.文章の書き方 その2

この項では,二酸化炭素が温室効果ガスであることを,読み手が理解していないが書き手はわかっているケースを取り上げます.この場合は,二酸化炭素が温室効果ガスであることの説明を加えます.そうしないと,読み手は書き手の主張を理解できません.

1)文章を書く

文例
前項の文例の「ここ100年間で約0.7℃上昇している」の後に以下の文章を加えます.それを受けて,後続の文章はうまくつながるように改訂します.

ところで,大気が生物が生存できる温度を保つことができるのは,二酸化炭素などの温室効果ガスによる.それは以下のプロセスによる.2,3)
一般に分子は複数の原子から構成され,原子どうしは種々のモードで振動する.振動モードに対応するエネルギー(振動エネルギー)は,分子構造と構成元素に依存する特定の値をとり,赤外線(波長800 nm~1 mm)のエネルギーに対応している.赤外線は物質に吸収されると熱作用が生じるので熱線ともいい,熱エネルギーそのものでもある.赤外線が分子に照射されると,振動モードに対応したエネルギーを分子は吸収する.分子は振動し,赤外線(熱線)を外部に放射する.この吸収と放射は,分子が大気中に存在していればいつまでも起こり続ける.
たとえば,二酸化炭素はCとOからなり,安定なC=O=Cの直線構造をとる.この分子の振動エネルギーは14,992 nmなど赤外線(熱線)領域にある.大気中の二酸化炭素は振動エネルギーの熱線を吸収し,外部に熱線を放射する.それはあらゆる方向に放射される.大気中では,約1/2は地表面へ,他は宇宙へ向けて放射される.地表面へ放射された熱線(熱エネルギー)が温室効果を起こす.温室効果により大気は私たちが生存できる温度に保たれる.もし,温室効果ガスがなければ,大気は-19℃になると考えられている.

文献
2)アトキンス 物理化学(下)第4版,千原秀昭,中村亘男訳,東京化学同人,1993年,pp 722-739.
3)M. Hesse, H. Meier, B. Zeeh,有機化学のためのスペクトル解析法,野村正勝 他訳,
化学同人,2000年,pp. 27-65.

解説
二酸化炭素が赤外線(熱線)を吸収し放出するのは,有機分子の分子振動によります.それを簡潔に説明してします.また,赤外線が熱線とも呼ばれる理由も説明してあります.
ここでは,分子振動に関する文献を引用しました.この文章は上記2)と3)の文献を参考にしましたし,読み手にとって新しい知識と考えたからです.文献を引用すると,読み手はそれを読んで勉強できますから,より理解を深めることができます.
その知識が科学技術の標準的な知識であれば,文献はできるだけ標準的で代表的なテキストや論文とするとよいです.その知識が必要十分な言葉で解説されているからですし,読み手にとってよいテキストになるからです.この文例はその例です.
また,標準的でないが有望な学説やある1つの仮説を述べるのなら,それが書かれている文献を必ず引用します.その文献を参照しないと学説などをより深く理解できないからです.
なお,書き手と読み手の属する分野で一般常識と考えられる知識を述べるとき,文献を引用しないでもよいです.この分野の人なら知っているべき一般常識だからです.

2)文例の全文

以下に,上の文例を加えて,文章の一部と文献番号を改訂した全文を示します.なお,図は割愛します.

地球温暖化の主要因は二酸化炭素量の増大

 最近,夏の極端な高温など異常気象現象が頻発している.それは地球温暖化によると考えられている.そこで,なぜ地球は温暖化していると考えられるのか,その要因をデータとエビデンスに基づいて考察する.
 世界の平均気温が上昇していることは,世界の年平均気温偏差の変化で明らかである.図1に世界の平均気温の1981〜2010年の30年平均値からの偏差を示す1).黒線は各年の平均気温の基準値からの偏差,青線は偏差の5年移動平均,赤線は長期的な変化傾向を示す.1890年~2018年までの年平均気温は,短期的にはバラツキがあるが,長期的には上昇している.ここ100年間で約0.7℃上昇している.
 ところで,大気が生物が生存できる温度を保つことができるのは,二酸化炭素などの温室効果ガスによる.それは以下のプロセスによる2, 3).一般に分子は複数の原子から構成され,原子どうしは種々のモードで振動する.振動モードに対応するエネルギー(振動エネルギー)は,分子構造と構成元素に依存する特定の値をとり,赤外線(波長800 nm~1 mm)のエネルギーに対応している.赤外線は物質に吸収されると熱作用が生じるので熱線ともいい,熱エネルギーそのものでもある.赤外線が分子に照射されると,振動モードに対応したエネルギーを分子は吸収する.分子は振動し,赤外線(熱線)を外部に放射する.この吸収と放射は,分子が大気中に存在していればいつまでも起こり続ける.
 たとえば,二酸化炭素はCとOからなり,安定なC=O=Cの直線構造をとる.この分子の振動エネルギーは14,992 nmなど赤外線(熱線)領域にある.大気中の二酸化炭素は振動エネルギーの熱線を吸収し,外部に熱線を放射する.それはあらゆる方向に放射される.大気中では,約1/2は地表面へ他は宇宙へ向けて放射される.地表面へ放射された熱線(熱エネルギー)が温室効果を起こす.温室効果により大気は私たちが生存できる温度に保たれる.もし,温室効果ガスがなければ,大気は-19℃になると考えられている.
 温室効果の寄与も含めて,地球全体のエネルギー収支を図2に示す4, 5).地球に供給されるエネルギーは太陽からの光や熱線の放射エネルギーである.太陽光の一部は大気や地表面で反射されたり(C-1)大気内の温室効果ガスに吸収される(B-2)が,約1/2は地表面に吸収され(A-1),地表面を暖める.地表面からは熱線が大気へ放射され(B-1),そのほとんどは温室効果ガスに吸収されるが,一部は温室効果ガスに吸収されないで(「大気の窓」により)宇宙へ放出される(C-3).また,地表面からは顕熱(暖められた建物や地表面からの熱放射)(B-2)と潜熱(水蒸気による熱放射)(B-3)による放射もある.上述したように,温室効果ガスに吸収された熱エネルギーは,熱線として約1/2は地表面へ放射され(A-2),他は外(宇宙)へ放射される(C-2).地表面へ放射された熱線(熱エネルギー)(A-2)が温室効果を起こす.温室効果の程度は温室効果ガスの種類と量によると考えられる.
 温室効果が強くなれば,つまり温室効果ガスが増加すれば,地球は温暖化すると考えられる.温室効果ガスは水蒸気,二酸化炭素やメタンなどである.水蒸気は自然由来で太古から大気に存在しているので,ここで考察する温暖化に関係しない.他の温室効果ガスで大量に存在しているのは二酸化炭素である.このガス量の変化は注目すべきである
 西暦0年からの大気中の二酸化炭素の経年変化を,図3に示す6).大気中の二酸化炭素は西暦0年から19世紀までは約280ppmでほぼ一定であった.しかし,19世紀末からそれは上昇し,特に20世紀後半に大きく上昇し,2015年では約400ppmになった.
 世界の二酸化炭素量の変化(図3)と平均気温偏差の変化(図1)は,よく対応している.大気中に二酸化炭素量が増大することにより,それから地表面へ放射される熱線が増大し,地球温暖化が起こったと考えることは合理的である.
 大気中の二酸化炭素の増量は,産業革命以降の産業活動や日常活動における化石燃料の大量使用によると考えられる.その温暖化に対する影響の程度は,気候モデルを用いたシミュレーションと観測結果を対応させると理解できる4)(図4).図中,黒線は観測結果,青帯は自然起源(太陽活動+火山活動)の影響のみを考慮した複数のシミュレーション結果,および赤帯は自然起源の影響と人間活動の影響(人為起源温室効果ガス等)を加えた場合の複数のシミュレーション結果を示す.
 図で示される複数のシミュレーション結果を考察すると,自然起源の影響のみで気温の上昇が起こったとは考えにくい.それに対して人間活動の影響を加えると20世紀,特にその後半で気温が上昇していることがわかる.シミュレーション結果は観測結果とよく合っている.このことは,温暖化は人間活動の影響による可能性がきわめて高いことを示す.つまり,産業活動や日常生活でより多量の二酸化炭素などの温室効果ガスが排出され,それが温暖化を進めたと考えられる.
 以上の結果より,地球温暖化の主な要因は二酸化炭素量の増大によると考えられる.その増大は人間の産業活動や日常生活によると考えられる.

文献
1)気象庁HP URL:https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/aug_wld.html
2)アトキンス 物理化学(下)第4版,千原秀昭,中村亘男訳,東京化学同人,1993年,pp 722-739.
3)M. Hesse, H. Meier, B. Zeeh,有機化学のためのスペクトル解析法,野村正勝 他訳,
化学同人,2000年,pp. 27-65.
4)IPCC report communicator ガイドブック~基礎知識編~WG1基礎知識編(環境省)
URL:https://ondankataisaku.env.go.jp/communicator/files/WG1_guidebook_151016.pdf
5)国立天文台編,“環境年表2019―2020”,丸善出版(2019年)p. 31.
6)気象庁HP http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/chishiki_ondanka/p06.html

6.まとめ


科学技術に限らず,私たちは自分の意見や考えなど何かを主張します.
主張にはそれを裏付ける事実(データ)やその根拠・証拠(エビデンス)が必要です.

それらを使って,あなたの主張を論理的に(科学技術ではさらに科学的に)述べると,
読み手はあなたの主張を理解し,納得できます.



科学技術文はデータとエビデンスを使って書くための一定の体裁を持っています.
それに従い順序立てて書けば,論理的で科学的な文章を容易に書くことができます.

その体裁は以下のとおりです.

・文章の目的と概要を簡潔に述べる
・データはどこにあるのか,を記す
・データが示していることと,データからわかったことを述べる
・エビデンスを示して考察(議論)する
・結論を書く



その中でも,エビデンスに基づく考察(議論)は,
読み手と書き手の持っている知識によって書き方を変えると,読み手に理解しやすい文章になります.

具体的には以下のとおりです.


読み手も書き手も共通の知識を持っている場合は,
両者が知っていることを割愛しても読み手は理解し納得してくれます.


書き手はわかってはいるが読み手が知らないことがあれば,
それを述べないと読み手は理解できませんし納得できません.


書き手も読み手も知らないことは,新たな知識として書き理解を求めます.


報告書が書き手の属する機関のテキストや必読レポートとして使用されることもあるでしょう.
そのようなときは,報告書に関する基本的な事項から説明すべきです.



本稿は,その中から,読み手と書き手が同じ知識を持っている場合と,
両者の知識が異なる場合の書き方を述べます.

事例として地球温暖化の要因を取り上げました.

文例全文は,4項2)および5項2)をご覧願います.

以上


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全ての研究者・技術者・理系学生のために!
この一冊で研究報告書のテクニカルライティングが学べます。

  • ・研究報告書の構成,体裁と内容について
  • ・結果と考察の構造,重要な4要素,結果と考察の論理展開について
  • ・結果と考察の書き方について
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  • ・文の推敲に係り受け解析を使う方法について

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著書紹介
『理系のための文章術入門』

科学技術文の書き方を,易しく解説した入門書です.
本書の特徴は以下のとおりです.

①重要な部分をカラーにして強調したり,ポイントを枠で囲むなどして,ビジュアルな誌面とし,内容をつかみやすいようにしています.

②日本語の構成と特徴を述べ,次いで理系文の構成と特徴を,日本語文のそれと比較しながら述べ,両者の違いがわかるように配慮してあります.

③科学技術文の構成と特徴を「理系文法」として体系化したので,科学技術文の書き方を体系的に困難なく習得することができます.

④科学技術者が書くさまざまなスタイルの文章(レポート・卒論・企業報告書など)を示し,書き方を具体的に解説しました.

いろいろなスタイルの文章に慣れ,それらを書くスキルを身につけることができます.
本書で学ぶことにより,科学技術文書作成の達人になれます.
著書紹介『理系のための文章術入門』