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実験報告書 「結果と考察」の書き方 【テクニカルライティング】

前回は,科学技術文は論理的に説明する
文章であることを述べました.

科学技術者は,研究開発業務を遂行するため
実験を行い,実験報告書を書きます.

それは典型的な科学技術文です.
報告書では,”結果“とそれに対する”考察“が一番大事です.

しかし,“結果と考察”を書くのは,実はなかなか難しいのです.

今回から,実験報告書を取り上げ,その中でも,
特に“結果と考察”の書き方について述べましょう.
 
まず,実験報告書の内容・構成と書く手順について述べます.

1.実験報告書は“結果と考察”が大事

実験報告書の内容は以下のとおりです.

①ある目的を持って
②実験を行い
③そこから得られた結果と
④その意味や判断をエビデンスと共に
⑤図表を含む文章で記述されたもの

以上です。

科学技術者が行う研究や開発には目的があります.
新製品を開発する,ある現象を解析する,
機器や部材を設計する,などです.

目的を達成するために実験などを行います.
開発業務にとって,どのような実験や観察を
どのように行うのか,どのような成果が
得られたのかはもちろん重要です.

科学技術文作成にとって重要なのは,
結果およびその意味と判断です.

これは“結果と考察”と言い換えてもよいです.
ここで大事なのは,実験結果を述べるだけではなく,
その意味・判断をエビデンスを示しながら,
論理的に文章で記述することです.

つまり,書き手が行った実験について,
何を行ったのか,その結果どうなったのか,
そこから何がわかったのか,
その意味は何か,
そこから何をどのようにして判断したのか,
意味の解明と判断のエビデンスは何か,
を論理的に簡潔に書くのです.

そのとき,データなどを図表で示します.
実験報告書が書きにくい大きな理由の一つは,
「意味・判断をエビデンスを示しながら,
論理的に文章で記述する」ことです.

これについては後々何度も出てくるでしょう.

2.実験報告書の構成

実験報告書は,上の事項を記述するため,以下の構成になっています.

①何のために(目的)
②何を行って(実験)
③何がわかって
④それは何なのか・どうしたいのか(意味・判断・要因など)
⑤エビデンスは何か
⑥結論は何か

③から⑤が“結果と考察”です.

3.実験報告書を書く

1)報告書を書く前に

実験結果が出ているとします.
でも,それだけではまだ報告書を書けません.
準備することがあります.

①実験目的(課題)の確認

何を明らかにしたくて実験を行ったのか,
それを具体的な言葉で表現します.

ある研究を成し遂げるためには,
計画を立て一連の実験を行います.

いま実施した実験はその一つですから,
実験の目的は明確になっているはずです.

それを確認するために,改めて,
その実験は何を解明するのか,
つまり“実験目的(課題)は何か”
を明確に文章で表現します.

意外にハッキリしていないときもあるのです.

②データの「見える化」

実験で得られたデータを
図表などにまとめて「見えるか化」します.
ここでいう「データ」には実験で観察したことも含みます.

まず,データを表にまとめます.
表にすると整理されてわかりやすくなるからです.

次に,データをグラフ化して,一目でわかるようにします.

たとえば,ある試料の温度に対する物性の変化を
実験して調べたとします.

このとき,“温度”は変化させる物理量で,
“物性”はその結果として変化したものです.

グラフの横軸は変化させる物理量とし,
縦軸は変化された物性とします.

また,別の例として,
化合物の合成実験を行ったとします.

“原材料の量”変化に対する生成物の“収率”変化を調べたのなら,
横軸は“原材料の量”で縦軸は“収率”です.

横軸と縦軸を逆にすると,科学技術者は違和感を抱き,
グラフの意味を理解できなくなります.

③既知の知識の確認

報告に関係する既知の知識を確認します.
それは行った実験に関する文献などで,
エビデンスになります.

書き手は,既知の知識を理解していないと,
実験結果の意味を述べられません.

書き手の得た実験結果は,既知の知識と
比較することによってその意味を見出すことができます.

それが報告書に書かれていないと,
読み手は実験結果について判断できません.
両者の議論がかみあわないこともあります.

既知の知識を読み手がよく理解しているときは,
その引用と議論は簡単でもよいでしょう.
両者に共通の理解があるからです.

しかし,読み手が十分に理解していない
ケースもあります.

そのときは書き手は既知の知識を
ある程度詳細に記します.

そこから自分の判断へ至る道筋も詳しく書きます.
そうしないと,読み手に報告内容を
よく理解してもらえませんし,
実験結果について適切に判断してもらえません.

2)実験報告書を書く

準備を終えたら報告書を書きます.

①実験目的を書く

上で確認した実験目的を書きます.

②実験プロセスを書く

行った実験内容を書きます.
読み手がそれを再現できるように,
具体的に操作内容などを書きます.

ただし,読み手がよく知っていることは
簡単に書いてもかまいません.

使用した試薬量は有効数字に留意して明確に書きます.

科学技術は読み手がその実験を
再現できることが重要です.

それに関係する誰もが確かめられるように
書くのです.

それが科学技術の特徴です.

③データが示していることを書く

・実験の目的と内容の概要を書く
何を調べたくて,どんな実験を行ったのか,
概要を書きます.

・データはどこにあるか
データを図表で示します.
図と表は,それぞれに追い番で
番号をつけます.表と図の番号を書きます.

・データは何を示しているか(観察したことも含む)
データが何を示しているのか
(何がどのようにどの程度変化したか,
変化しなかったのか)を具体的に,
図表を説明しながら書きます.

データが複数あるときは,原則として
それぞれのデータについて記述します.
なお,データには実験で観察したことも含まれます.

④わかったことを書く

そこから何がわかったのかを書きます.
上の例で言うと,

「ある試料で温度を上昇させると物性が直線的に増加した」,

「原材料を増量すると生成物の収率が向上した」

などです.

⑤エビデンスを示して議論する

科学技術では,データについて議論するとき,
ほとんどの場合既知の知識の助けを借ります.

エビデンス(証拠や根拠)です.
エビデンスを出所(出典)を明示して,
議論に入いるのです.

上で述べたように,既知の知識を十分理解していれば,
それを引用して説得的な議論ができます.

逆に言うと,理解が不十分だとエビデンスの引用と
議論がうまく行きませんし,読み手に納得してもらえません.

上の例で言えば,温度を上昇させると
物性が直線的に増加するのは,
類似材料でも同様であり,
それが一般法則として成立しているのなら,
類似材料の結果を引用して,
同様の変化であることを示して,
一般法則の一例として成立すると述べます.

なお,この項は前項④と一緒に記してもよいです.
この2つは区別できないことも多いです.

⑥結論を書く

結論を書きます.文章で書いてもよいですし,
箇条書きでもOKです.

4.結果と考察を書くのは難しい

繰り返しますが,上の③から⑤は“結果と考察”です.
実はここを書くのが難しいのです.

実験したこととその結果を書いてしまえば,
それで説明は終了と誤解している人が多いのです.

これはどうも日本人の考える方法と
関係があると,筆者は考えています.

しかし,書き方を理解し一定の方法に従って書いていけば,
誰でもうまく書けるのです.

5.まとめ

1)実験報告書は“結果と考察”が大事
実験報告書の重要なポイントは,
結果およびその意味と判断(“結果と考察”)です.

結果の意味・判断を,エビデンスを示しながら,
論理的に文章で記述します.

2)実験報告書は,一定の構成を持っています
実験報告書は,何のために,何を行って,
何がわかって,その意味・判断・要因を,
エビデンスを示しながら述べたものです.

3)実験報告書の書き方
実験報告書を書く前に,目的を確認し,
データを図表で「見える化」し,
エビデンスとして使う既知の知識(文献など)を確認します.

報告書は原則として次の順序で書きます.

①実験目的
②実験プロセス
③データが示していること
④わかったこと
⑤エビデンス
⑥結論

④と⑤は一緒に記してもよいです.

4)結論
結果と考察を書くのは難しいが,
書き方を理解すれば,誰でもうまく書けます.

次回は“結果と考察”の例を示します.

次に,“結果と考察”を書くことと
日本人の考え方との関係を述べます.

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著書紹介
『理系のための文章術入門』

科学技術文の書き方を,易しく解説した入門書です.
本書の特徴は以下のとおりです.

①重要な部分をカラーにして強調したり,ポイントを枠で囲むなどして,ビジュアルな誌面とし,内容をつかみやすいようにしています.

②日本語の構成と特徴を述べ,次いで理系文の構成と特徴を,日本語文のそれと比較しながら述べ,両者の違いがわかるように配慮してあります.

③科学技術文の構成と特徴を「理系文法」として体系化したので,科学技術文の書き方を体系的に困難なく習得することができます.

④科学技術者が書くさまざまなスタイルの文章(レポート・卒論・企業報告書など)を示し,書き方を具体的に解説しました.

いろいろなスタイルの文章に慣れ,それらを書くスキルを身につけることができます.
本書で学ぶことにより,科学技術文書作成の達人になれます.
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