テクニカルライティング教室

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つながる文は伝わる文 テクニカルライティングにおける文間文法(4) 文間を浅くする工夫

目次

1.文間文法は大事―文と文を意味的につなげる―

文章を読んでいると,文と文が滑らかにつながるときと,うまくつながらないときがあります.前者だとサクサク読めますが,後者では読みにくく文章が何を言いたいのかわかりにくいです.

文のつながりやすさ・つながりにくさは,文間文法が明らかにしてくれます.滑らかにつながる文は,文間が浅いといい,つながりにくい文は文間が深いといいます.文間文法とは聞き慣れない言葉ですが,科学技術文の作成には重要です.その概要は,以下の3つのブログで解説しました.

・「つながる文は伝わる文―テクニカルライティングにおける文間文法(1)―」

・「つながる文は伝わる文―テクニカルライティングにおける文間文法(2) 文と文の論理的関係―」

・「つながる文は伝わる文―テクニカルライティングにおける文間文法(3) 接続語の役割―」

文間文法は,①文と文の論理関係②接続語(つなぐ言葉)の役割を明らかにします.

論理関係については「つながる文は伝わる文―テクニカルライティングにおける文間文法(2) 文と文の論理的関係―」で説明し,接続語については,「つながる文は伝わる文―テクニカルライティングにおける文間文法(3) 接続語の役割―」で述べました.

今回は,キーワードと接続語を使って,文と文を滑らかにつなぐ方法を述べます.

2.文と文はキーワードと接続語でつなげる

言うまでもないことですが,文章はあることについて書き手の主張を述べるものです.それはいくつかの文を使って記述されます.前文を受けて,後文はその説明・例示・定義を述べたり,話題を変えたり,関連事項を述べます.

このようにして文と文は意味的につながり,文章全体で書き手の言いたいこと(主張)が記述されます.

文と文を意味的につなげるには,

①キーワードをパラグラフ内の各文に置いて,それを手がかりにして前文と後文を関係づけ,
②前文の何を受けたのかを接続語で明確化します.

キーワードは読み手が文章と書き手の主張を理解するのに重要です.一般に,書き手の主張は多くの要素となる主張で構成されます.1つの要素となる主張は1つのパラグラフで述べます.それはパラグラフの主題と結論に凝縮されます.ここから導かれるキーワードをパラグラフ内の各文に置きます.このようにしてパラグラフを書くと,読み手はキーワードを手がかりに,そのパラグラフにおける書き手の言いたいこと(要素となる主張)を理解します.

各パラグラフの言いたいこと(要素となる主張)は異なりますので,各パラグラフのキーワードは異なることが多いです.各パラグラフのキーワードを探して,それを目印に上の読解を全パラグラフで行うことにより,読み手は書き手の文章全体における主張(文章全体で書き手が言いたいこと)を理解できます.なので,キーワードを各文に置くことは重要です.

一方,接続語は前文と後文の関係を明確化します.「また」でつなげると前文と類似の事項が後文でも続くと読み手は予想しますし,「しかし」が使われると前文とは反対のことが書かれていると予測して読みます.

文例1で説明します.

文例1は土星の衛星タイタンについて書かれており,1パラグラフからなっています.この文章の主題は「土星の衛星タイタンは不思議な星だ」で,結論は「タイタンは探索すべき価値がある」です.主題と結論を展開がつないでいます.主題を受けて展開で書き手が伝えたいことを順番に書き,結論へと導きます.展開はここでは意味的に4つに分かれます.①がタイタンの地表の状態,②が大気圏の状態,③は生命誕生が可能となる化学物質を述べています.それらをまとめて④「まるで異質な地球のようだ」になります.これらから結論が得られます.

この文章(パラグラフ)のキーワードは「タイタン」とそれに関連する言葉(「地表」,「大気(圏)」,「アセチレン・・・シアン化ビニル」,「生命誕生・・物質」と「異質な地球」)です.ここで,1つの文に1つのキーワードがあることに注目してください.多くの場合,パラグラフのキーワードは,パラグラフ内の各文にあります.

接続語は「その」(連体詞)と「さらに」(接続詞)です.キーワードを□枠に入れ,接続語に二重下線を引いて,以下に示します.

これらのキーワードを順番に追っていくと,タイタンの状態が理解できます.第2文と第3文のキーワードは,それぞれ「地表」と「山や岩石」であり,関連しています.第4文と第5文のキーワードは「大気(圏)」で話が大気に変わったことがわかります.

なお,第4文は第3文の理由を述べていますので,第3文と第4文のつながりもわかります.第6文と第7文はさらにキーワードが変わり話題が変化します.そうすると第8文のキーワード「異質な地球」が素直に頭に入ってきて,その意味が理解できます.

つまり,地球とは異なる物質からなる地球によく似た星だということがわかるのです.ここまで来ると,結論は納得できます.

このように,キーワードを文におき,接続語を使うと,文と文を滑らかにつなぐことができます.

3.文間をキーワードと接続語を使って滑らかにする―文章改訂の方法―

文間を別の文例を使って,もう少し考えてみましょう.

文例2には文間の深いところが何ヶ所かあります.それを考えてみます.

深さは「深い」と「少し深い」とに分類します.なお,文間の浅いところは特に議論しません.

おそらく,以下の4ヶ所が指摘できるでしょう.ここで,Aは深い文間で,B~Dは少し深いと判断されます.

Aは前後の文がうまくつながりません.「気象庁・・」の文は唐突な感じがすると思います.B~Dは前文から後文に移るとき,つまずく感じがして違和感を持つでしょう.

この文章を改訂しましょう.

まず,文間が少し深いB~Dを検討します.これらはいずれも適切な接続語を使うと,文と文が滑らかにつながります.つまり,文間が浅くなります.たとえば,Bは「事実」を入れるとつながります(ここで使われる「事実」は接続語の1つです).Cは「二酸化炭素の増大は」という意味での「それは」を,Dは「だから」をそれぞれ使うとつながりがよくなると思います.

深い文間のAは,文を補わないとつながりません.前文は気候変動について書かれており,後文はそれに関するデータが書かれています.なので,それらを結びつける文が必要になります.たとえば,「現状はデータで説明できる」とか,もっと詳しく「気候変動の現状は,世界の気温変化のデータから明確に読み取れる」があげられます.

以上を盛り込んだ改訂文(文例2改訂版)を以下に示します.改訂箇所に下線を引きました.改訂の結果,つながりがよくなったことが確認できます.

4.まとめ

1)
文章を読んでいると,文と文が滑らかにつながるときと,うまくつながらないときがあります.文のつながりやすさ・つながりにくさは,文間文法が明らかにしてくれます.滑らかにつながる文は,文間が浅いといい,つながりにくい文は文間が深いといいます.文間文法とは聞き慣れない言葉ですが,科学技術文の作成には重要です.

文間文法は,①文と文の論理関係と②接続語(つなぐ言葉)の役割を明らかにします.その概要は,以下の3つのブログで解説しました.

・つながる文は伝わる文―テクニカルライティングにおける文間文法(1)―
文間文法とは何かを説明しました.

・つながる文は伝わる文―テクニカルライティングにおける文間文法(2)文と文の論理的関係―
文間文法は,文と文の論理関係を明らかにします.それを説明しました.

・「つながる文は伝わる文―テクニカルライティングにおける文間文法(3)接続語の役割―」
文間文法は接続語(つなぐ言葉)の役割を明らかにします.それを説明しました.



2)
本稿は,キーワードと接続語を使って,文と文を意味的につなぐ方法を述べました.

キーワードと接続語を以下のように使うと,文章内の文と文が意味的につながります.

①キーワードをパラグラフ内の各文に置いて,それを手がかりにして前文と後文を関係づけます.

②前文の何を受けたのかを接続語で明確化します.

これらを文例を用いて解説し,キーワードと接続語に着目した文章改訂例を示しました.

以上

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