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つながる文は伝わる文 ―テクニカルライティングにおける文間文法(3) 接続語の役割―

目次

1.はじめに

科学技術文(理系文)は論理的でわかりやすく書かねばなりません.
さらに,文が滑らかにつながることも重要です.

1つの文から次の文へ滑らかにつながり,流れるように読める文章だと,
書き手の言いたいことを読み手は容易に理解します.

つながる文は伝わる文です.

文のつながりやすさやつながりにくさは,文間文法が明らかにしてくれます.

滑らかにつながる文は,文間が浅いですが,
つながりにくい文は文間が深いです.

文間文法の概要は,「つながる文は伝わる文―テクニカルライティングにおける文間文法(1)」で述べました.

文間文法は,
①文と文の論理的関係

②接続語(つなぐ言葉)の役割
を明らかにします.

「文と文の論理的関係」は,
つながる文は伝わる文―テクニカルライティングにおける文間文法(2)文と文の論理的関係
で述べました.

本稿は,接続語(つなぐ言葉)について説明します.

2.接続語の種類

文と文を何らかの言葉でつなぐことが多いです.
つなぐ言葉は文間の浅さ・深さを決めます.

適切なつなぐ言葉は文を滑らかにつなげます.

しかし,つなぐ言葉がなかったり適切でなければ,文はつながりにくいです.

つなぐ言葉を,文間文法の提唱者小林に倣って「接続語」と言いましょう.

科学技術文の接続語は,図に示すように4種類と考えられます.
図にはあわせて例も示します.

それぞれの説明と文例を示します.

接続語があることにより,前文と後文が滑らかにつながります.
そのことは接続語を除くとよく理解できます.

1)接続詞

文と文を接続する品詞です.
その意味と例を表に示します.

接続詞は2つの文を並べてつなぐ(並列),
いくつかある中から1つを選ぶ(選択)などいくつかの意味をもちます.

科学技術文(理系文)でよく使われる接続詞を表に示します.



文例1
北極圏の温暖化が進んでいる.したがって,その対策が必要である.

接続詞「したがって」は,前文の記述内容の順当な結果として,
後文の記述事項につなげます.

2)つなぎ語

「つなぎ語」は筆者の造語です.
接続詞ではないが,文と文をつなぐ役割の言葉です.

「一方」,「ある意味」や「たとえば」などです.
文章によりさまざまな言葉がつなぎ語として用いられます.

文例2
北極圏の温暖化が進んでいる.たとえば,北極圏の海氷面積は減少している.

前文の内容をわかりやすく説明するため,
「たとえば」でつないで例を提示します.

例を示すと,前文の事項を理解しやすくなります.

3)連体詞

連体詞は,名詞を修飾する品詞で,
活用せず,「~の」,「~た」や「~な」の形をもちます.

文間で使われる連体詞には,「この」,「その」,「こうした」や「そんな」などがあります.

文例3
北極圏の温暖化が進んでいる.その影響は大きい.

前文全体を連体詞「その」で受けて後文は始まります.

「その」があるから,北極圏の温暖化による影響が大きいことが素直に理解できます.

4)代名詞

代名詞は,「品詞の一つで,名詞の代りに用いられる代用形の名詞」(広辞苑第7版)です.

たとえば,「これ」,「それ」「これら」や「それら」などです.

文例4
北極圏の温暖化が進んでいる.それを示す多くのデータがある.

前文全体を代名詞「それ」で受けます.
後文は前文の内容を具体的に示すデータがあることを述べます.

だから,2つの文の関係を読み手はよく理解でき,これらの文はスムーズにつながります.

3.接続語で文間を滑らかにつなぐ

文間が深いと,前文と後文の関係が理解しにくいです.
このような文間だと文はつながりにくいです.

文例5にその例を示します.

文例5
海洋の貯熱量は1990年以降顕著に増加した.海水が熱膨張し,海氷が溶け,海面水位が上昇している.

この文例は文間が深く,前文と後文の関係がよくわかりません.

前文は「海洋の貯熱量が1990年以降顕著に増加した」ことを述べています.

後文は「海水が熱膨張」すること,「海氷が溶け」ることを述べ,
「海面水位が上昇している」ことが記されています.

後文は前文の貯熱量が増えたことを受けて,その結果起こったことを述べたのか,
それとは独立に海洋で起こったことを記したのか,よく理解できません.

読み手は2つの文を繰り返し読んでこれらの関係を理解しようと努力しなければなりません.
文間が深くなるわけです.

この文例は,前文を受けて,後文は「その結果」起こったことが記されている,
と捉えるのが素直です.

改訂例を文例6で示します.

文例6
海洋の貯熱量は1990年以降顕著に増加した.その結果,海水が熱膨張し,海氷が溶け,海面水位が上昇している.

接続語「その結果」を後文の最初に加えました.

前文を受けて,「その結果」起こったことが記述されます.

文間は浅くなり,2つの文は滑らかにつながりますし,
論理関係も明確になりました.

このように,適切な接続語を加えることにより,文間が浅くなり,
2つの文を滑らかにつなげることができます.

4.まとめ


科学技術文(理系文)は論理的でわかりやすく書かねばなりません.
さらに,文が滑らかにつながることも重要です.

文のつながりやすさやつながりにくさは,文間文法が明らかにしてくれます.



文間文法は,
①文と文の論理的関係

②接続語(つなぐ言葉)の役割
を明らかにします.



本稿は,接続語について説明しました.
接続語は4種類あります.

すなわち,接続詞つなぎ語連体詞および代名詞です.

接続詞は「また」,「しかし」など,つなぎ語は「一方」,「たとえば」など,
連体詞は「その」,「このような」など,代名詞は「これ」,「それ」などです.

それぞれの概要と文例を示しました.

著書紹介
『理系のための文章術入門』

科学技術文の書き方を,易しく解説した入門書です.
本書の特徴は以下のとおりです.

①重要な部分をカラーにして強調したり,ポイントを枠で囲むなどして,ビジュアルな誌面とし,内容をつかみやすいようにしています.

②日本語の構成と特徴を述べ,次いで理系文の構成と特徴を,日本語文のそれと比較しながら述べ,両者の違いがわかるように配慮してあります.

③科学技術文の構成と特徴を「理系文法」として体系化したので,科学技術文の書き方を体系的に困難なく習得することができます.

④科学技術者が書くさまざまなスタイルの文章(レポート・卒論・企業報告書など)を示し,書き方を具体的に解説しました.

いろいろなスタイルの文章に慣れ,それらを書くスキルを身につけることができます.
本書で学ぶことにより,科学技術文書作成の達人になれます.
著書紹介『理系のための文章術入門』