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論理的で締まりのある短文を書く方法 その2―動詞・助動詞の連用形を多く使わない ―テクニカルライティングの言葉―

目次

1.つなぐ言葉―動詞・助動詞の連用形

文と文あるいは文節と文節をつなぐ言葉があります.
文は接続詞やつなぎ語が,文節は接続助詞がつなぎます.

接続助詞を使いすぎと冗長な長文を書いてしまいます.
接続助詞をできるだけ削除して,
必要に応じて接続詞やつなぎ語をうまく使うと,
論理的で締まりのある文章を書くことができます.

それらについては,
「論理的で締まりのある短文を書く方法 その1―接続助詞を多く使わない」
で述べました.

文節と文節をつなぐ言葉がもう1つあります.
それは,動詞・助動詞の連用形です.
あまり聞き慣れない言葉です.

これらは学校の国語の時間で学習しますが,
日常生活や仕事では出てくる機会はほとんどないかもしれません.

でも日本語文で重要な役目を持っています.
そして,動詞・助動詞の連用形も接続助詞と同様に,
日本語文を冗長な長文にしてしまうのです.

そこで,本稿は,
①動詞・助動詞の連用形が文節をどのようにしてつなぐのかを説明し,
②それがつくる冗長な長文例を紹介し,
③それを改訂し論理的で締まりのある短文からなる文章の作成法,
を述べます.

なお,
「論理的で締まりのある短文を書く方法 その1―接続助詞を多く使わない」
も参照してください.

2.動詞・助動詞の連用形

本論に入る前に,動詞・助動詞の連用形について説明します.

日本語文法の話です.
面倒な人はこの節をスキップしてもよいです.

以下の記述は,「国文法の基礎」(永山勇,洛陽社,2009年改訂版)と
「国文法ちかみち」(小西甚一,洛陽社,1973年改訂版)を参照しました.

まず,動詞と助動詞を説明します.

動詞は事物の動作・状態を記す言葉です.
たとえば,「鳥が飛ぶ」の「飛ぶ」,「技術者が実験する」の「する」です.

助動詞は動詞に付いていろいろな意味を加える言葉です.
理系文でよく出てくる助動詞は,
「せる」,「させる」,「れる」,「られる」,「ない」,「た」,「だ」などです.

助動詞の文例を示します.下線部が助動詞です.


文例1

炭素繊維を軸方向に配向させる
化合物Aは原材料BとCから合成される
部材Aの帯電防止機能は添加剤Bの効果によると考えられる
デバイスAの開発が終了し

「配向させる」の「せる」は「配向する」に使役の意味を持たせます.
何かが炭素繊維を配向という状態に「させる」のです.

「合成される」の「れる」は受身の意味です.

「考えられる」の「られる」は可能の意味で,「考えることができる」です.

「終了した」の「た」は過去や完了の意味で,「開発がすでに終了した」です.


動詞・助動詞は活用します.
活用とは文中で動詞・助動詞の語形が,
後ろに付く言葉の種類によって規則的に変化することです.

語形変化の形(活用形)は,
未然形,連用形,終止形,連体形,仮定形と命令形の6種類あります.

活用の種類(パターン)は五段活用や上一段活用など5種類あり,
大きな国語辞典や文法書には活用表が載っています.

活用形の1つに連用形があります.
連用形は動詞・助動詞の後ろに「ます」や「た」が付いたときの形です.

たとえば,「する」は「します」や「した」になりますから,
「し」が「する」の連用形です.連用形が使われるのは以下のときです.

①後ろに動詞や形容詞が付くとき(つまり,用言に連なる形です.動詞・助動詞を用言といいます).
②後ろに過去・完了を表す助動詞「た」,接続助詞「て」や丁寧語の助動詞「ます」が付くとき
③後ろに読点(「,」または「、」)が付いて文節が切れるとき

連用形の文例を示します.


文例2

金属は金属光沢があり,電気伝導性を示すことが特徴である.
デバイスAは自動車用部材としての応用が期待され,多くの特許が出願された.
実験結果はスペックを満足した
助成金を受けてその研究は大きく進展した.
最適条件を見いだすため実験を繰り返し行った.

 
第1文は,動詞「ある」の連用形「あり」で文節がいったん切れます.
読点(,)を打って次の文節が続きます.

第2文は動詞「する」の未然形「さ」に助動詞「れる」の連用形「れ」が付いて,
文節が切れています.
本稿はこの使われ方に注目します.

第3文は「する」の連用形「し」に過去・完了を表す助動詞「た」(終止形)が付きました.

第4文は「受ける」の連用形「受け」に接続助詞「て」が付いたものです.

第5文は動詞「繰り返す」の連用形「繰り返し」の後ろに,動詞が付きました.
「行った」は動詞「行う」の連用形「行っ」と過去・完了の助動詞「た」が付いたものです.

このような面倒な文法の言葉を使わないでも,
私たちは上の文を自然に書き問題ありません.

でも,文の構造を基本から理解しようと考えると,文法に則っるのが近道なのです.

このように,動詞・助動詞の連用形は,後ろに動詞・助動詞を付けたり,
助動詞を付けて文を終わらせたり,文節や言葉をつなげて文をつくります.
便利です.

3.動詞・助動詞の連用形は冗長な長文をつくりやすい

動詞・助動詞の連用形の使われ方③は,
文例2の第1文と第2文のように文節をつなぎます.

しかし,これを使いすぎると意味の理解できない冗長な長文をつくってしまいます.
気が付くと文例3のような長文を書いてしまいがちです.


文例3

ニュートンは2物体間に引力が働くことを発見,それが天体の星の間でも地上の物体間でも作用することを明らかに,天上界と地上界で同一の法則が適応されるという革命的な認識を打ち立て,近代物理学の創始者と見なされ,その一方では,錬金術に没頭し膨大な実験を繰り返し行い,根源的物質を発見しようと努力,その実験記録も残されており,「理性の時代の最初の人ではなく最後の錬金術師」(ケインズ)であるとも言われている.

文例3は1つの文です.なんと209文字もあります.
長すぎますし意味がよくわかりません.

その理由は7個の動詞・助動詞の連用形(下線部)で文節を延々とつなげているからです.

3箇所で使われている「し」は動詞「する」の連用形です.

その他,「立て」は動詞「立てる」の連用形,
「れ」は助動詞「れる」の連用形,
「おり」は動詞「おる」の連用形,
「行い」は動詞「行う」の連用形です.
 
このように,動詞・助動詞の連用形を使うと,長々と言葉が続きます.
さらに,意味も取れにくいです.

この文章を次節で改訂しましょう.

4.長文を短文化する

論理的で締まりのある短文で文章を書くと,
説得力のある文章ができあがります.

文の長さはせいぜい110文字程度まででしょう.
A4判用紙だと3行です.
この長さを目安にするとよいです.

文例3を改訂してそのような文章につくり変えましょう.
具体的な方法は以下のとおりです.

文節の切れ目にある連用形のいくつかを,終止形に変えて文を終わらせます.
改めて文を書き始めます.このとき,必要に応じて接続詞やつなぎ語を使います.


文例4に改訂例を示します.
なお,文が滑らかにつながるように文の一部を変えてあります.


文例4

ニュートンは2物体間に引力が働くことを発見した.aそれが天体の星の間でも地上の物体間でも作用することを明らかにして,b天上界と地上界で同一の法則が適応されるという革命的な認識を打ち立てた.だから,ニュートンcは近代物理学の創始者と見なされている.d
その一方,彼はe錬金術に没頭し膨大な実験を繰り返し行い,f根源的物質を発見しようと努力した.gその実験記録も残されている.したがって,「ニュートンはh理性の時代の最初の人ではなく最後の錬金術師」(ケインズ)であるとも言われている.

まず,文章を2つのパラグラフに分けました(dとe).
前半と後半はそれぞれ別のことが書かれているからです.

次に,5箇所(a,c,d,gおよびh)は,連用形を終止形にして文を終えました.
aとgは接続詞を使わないで次文を始めましたが,
他の2箇所(cとh)は接続詞を使い,
eはつなぎ語「その一方」を少し変えて使いました.

また,c,eとhは主語がないと意味のある文にならないので,
主語「ニュートンは」を立てました.

bとfは原文のままとしました.

2パラグラフに分かれ,それぞれ3文からなる文章に改訂され,
1文の文字数は14~69と大幅に減少し,理解しやすくなりました.
結果,論理的で締まりのある文章になりました.

別の改訂例もあります.


文例5

ニュートンは2物体間に引力が働くことを発見した.aそれが天体の星の間でも地上の物体間でも作用することを明らかにして,b天上界と地上界で同一の法則が適応されるという革命的な認識を打ち立てた.その功績により,ニュートンcは近代物理学の創始者と見なされている.d
ところが一方では,ニュートンはe錬金術に没頭し膨大な実験を繰り返し行い,f根源的物質を発見しようと努力していたのである.gその実験記録も残されているのだ.「ニュートンはh理性の時代の最初の人ではなく最後の錬金術師」(ケインズ)と言われる所以であるi

文例4とは少しニュアンスの違う文章になります.

このように,動詞・助動詞の連用形を終止形に変えて文を終わらせ,
接続詞やつなぎ語を必要に応じて使うと,
論理的で引き締まった短文からなる文章を書くことができます.

5.まとめ

1)文節と文節をつなぐには,接続助詞や動詞・助動詞の連用形が使えます.


2)この連用形を使いすぎると,長々と続く冗長な長文を書いてしまいます.それは意味が理解しにくい文章です.


3)改訂法は以下のとおりです.
①文節の切れ目にある連用形のいくつかを,終止形に変えて文を終わらせます.
②改めて文を書き始めます.このとき,必要に応じて接続詞やつなぎ語を使います.

このように改訂すると,論理的で締まりのある短文からなる文章ができあがります.

著書紹介
『理系のための文章術入門』

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①重要な部分をカラーにして強調したり,ポイントを枠で囲むなどして,ビジュアルな誌面とし,内容をつかみやすいようにしています.

②日本語の構成と特徴を述べ,次いで理系文の構成と特徴を,日本語文のそれと比較しながら述べ,両者の違いがわかるように配慮してあります.

③科学技術文の構成と特徴を「理系文法」として体系化したので,科学技術文の書き方を体系的に困難なく習得することができます.

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本書で学ぶことにより,科学技術文書作成の達人になれます.
著書紹介『理系のための文章術入門』